昔の携帯電話
- 2015/06/25
- 00:00
初めて目にした携帯電話。
あれは、IT系の会社に転職したころだ。
30年くらい前ということになる。
東京からの出張の帰り。
そのときは、珍しく午後の明るい時間に大阪空港に着いた。
当時は、東京出張でも新幹線ではなく飛行機を使うことが多かった。
大阪空港からは最寄り駅までバスに乗る。
阪急蛍池駅行きだ。
まだモノレールはなかった。
昼間のバスはすいている。
空いた席に座る。
座った席から一番後ろの席を見ると、長い席の真ん中に足を広げて、座っているおっさんがいる。
席を独り占めしているのは、これだけすいているバスなので、問題ではない。
おっさんの横には、ショルダーバッグのような箱がある。
荷物というより機械のようなケースである。
放送関係者が持っているような機材に見える。
あれは、昔の携帯電話ではないかと気づいた。
名前は、ポータブル電話機と言っていた。
でも僕の中では、納得がいかない。
当時の携帯電話は、とても携帯と呼べない代物だったが、誰でもが簡単に持てる値段の機械ではなかった。
初期費用も高く、使用料も高かった。
なんで、そんなおっさんが、こんなバスに乗っているのかということだ。
合点がいかない。
そんなことを考えているうちにバスが動き出す。
僕の疑問はしばらくすると、すぐに解消された。
携帯電話のおっさんが、大きな声で話し始めたのだ。
車内では携帯電話の使用はお控えください、というようなメッセージは流れてこない。
もちろん、携帯電話の使用禁止のステッカーもない。
「あのなぁ、持って行かれたんや」。
相手の声は聞こえない。
聞き耳を立てる。
「そうや、空港で停めとった車が、ないんや」。
一方的におっさんの声だけが聞こえてくる。
「レッカーや。これから行ってくるわ。警察に」。
これで状況が飲み込めた。
当時、大阪空港の駐車場は駐車できる車の数が十分ではなく、満車のことが多かった。そのため、駐車場の入口で空きを待っていたり、待つ時間のないときは、空港近くの駐車場まで戻って、そこで停めたりしていた。
空港近くの駐車場は、鍵を渡すタイプの駐車場で、空港まで送迎つきというものだ。
最近では、そのような駐車場はなくなっている。
空港の駐車場が広くなったことが、空港近くの駐車場を廃業させてしまったのだろうか。
きっと、そのおっさんは、空港に来て、空港の駐車場に停めようとしたら、駐車場がいっぱいだったのだ。
空港近くの駐車場まで戻る時間がない。
えいやとばかりに、空港駐車場のまわりに路駐して、飛行機に乗ったのだろう。
運がよければ、なにごともなく、帰りの飛行機で大阪空港に戻ってきて、そのまま車に乗って帰ることができる。
しかも駐車料金なしである。
ただ、そのおっさんの場合は、駐車違反の張り紙を貼られるだけではなく、レッカー車で車を持って行かれてしまったのだ。
かなりついていない。
高い携帯電話を持ち歩きながら、安い路線バスに乗った理由が分かった。
でもこちらは痛くもかゆくもないので、なんとなく、笑ってしまう。
不謹慎なことかもしれないが、これはしようがないことだ。
僕は、納得しながら、10分間の路線バスを降りた。
でも、阪急電車を駅で待ちながら、次の疑問がでてきた。
でも、なぜバスに乗ったのだろう。
タクシーのほうがよほど都合が良かったのではないだろうか。
時間も早く、行きたいところまで直接運んでくれる。
まさか、タクシー代を持っていないわけではないだろう。
あのおっさんを捜して、理由を聞くことは、いまさらできない。
まぁ、いいか。

あれは、IT系の会社に転職したころだ。
30年くらい前ということになる。
東京からの出張の帰り。
そのときは、珍しく午後の明るい時間に大阪空港に着いた。
当時は、東京出張でも新幹線ではなく飛行機を使うことが多かった。
大阪空港からは最寄り駅までバスに乗る。
阪急蛍池駅行きだ。
まだモノレールはなかった。
昼間のバスはすいている。
空いた席に座る。
座った席から一番後ろの席を見ると、長い席の真ん中に足を広げて、座っているおっさんがいる。
席を独り占めしているのは、これだけすいているバスなので、問題ではない。
おっさんの横には、ショルダーバッグのような箱がある。
荷物というより機械のようなケースである。
放送関係者が持っているような機材に見える。
あれは、昔の携帯電話ではないかと気づいた。
名前は、ポータブル電話機と言っていた。
でも僕の中では、納得がいかない。
当時の携帯電話は、とても携帯と呼べない代物だったが、誰でもが簡単に持てる値段の機械ではなかった。
初期費用も高く、使用料も高かった。
なんで、そんなおっさんが、こんなバスに乗っているのかということだ。
合点がいかない。
そんなことを考えているうちにバスが動き出す。
僕の疑問はしばらくすると、すぐに解消された。
携帯電話のおっさんが、大きな声で話し始めたのだ。
車内では携帯電話の使用はお控えください、というようなメッセージは流れてこない。
もちろん、携帯電話の使用禁止のステッカーもない。
「あのなぁ、持って行かれたんや」。
相手の声は聞こえない。
聞き耳を立てる。
「そうや、空港で停めとった車が、ないんや」。
一方的におっさんの声だけが聞こえてくる。
「レッカーや。これから行ってくるわ。警察に」。
これで状況が飲み込めた。
当時、大阪空港の駐車場は駐車できる車の数が十分ではなく、満車のことが多かった。そのため、駐車場の入口で空きを待っていたり、待つ時間のないときは、空港近くの駐車場まで戻って、そこで停めたりしていた。
空港近くの駐車場は、鍵を渡すタイプの駐車場で、空港まで送迎つきというものだ。
最近では、そのような駐車場はなくなっている。
空港の駐車場が広くなったことが、空港近くの駐車場を廃業させてしまったのだろうか。
きっと、そのおっさんは、空港に来て、空港の駐車場に停めようとしたら、駐車場がいっぱいだったのだ。
空港近くの駐車場まで戻る時間がない。
えいやとばかりに、空港駐車場のまわりに路駐して、飛行機に乗ったのだろう。
運がよければ、なにごともなく、帰りの飛行機で大阪空港に戻ってきて、そのまま車に乗って帰ることができる。
しかも駐車料金なしである。
ただ、そのおっさんの場合は、駐車違反の張り紙を貼られるだけではなく、レッカー車で車を持って行かれてしまったのだ。
かなりついていない。
高い携帯電話を持ち歩きながら、安い路線バスに乗った理由が分かった。
でもこちらは痛くもかゆくもないので、なんとなく、笑ってしまう。
不謹慎なことかもしれないが、これはしようがないことだ。
僕は、納得しながら、10分間の路線バスを降りた。
でも、阪急電車を駅で待ちながら、次の疑問がでてきた。
でも、なぜバスに乗ったのだろう。
タクシーのほうがよほど都合が良かったのではないだろうか。
時間も早く、行きたいところまで直接運んでくれる。
まさか、タクシー代を持っていないわけではないだろう。
あのおっさんを捜して、理由を聞くことは、いまさらできない。
まぁ、いいか。
