ぶろぐのあたま

10年くらい前のことだ。
顔にいぼのような吹き出物ができた。
少し大きくなったので、オフィスの近くの美容整形に行き、レーザーで除去してもらった。
それから2年くらいして、また同じところに、同じようないぼができた。
皮膚が記憶しているのだろうか。
その美容整形は女医さんがやっている。
以前と同じところにできたと言うと、今回は手術後の治療が丁寧になり、治療の回数も増えた。
その美容整形の女医さんは，年配の方で、おそらく60歳後半だったのではないかと思う。
同じビルの中で旦那さんが歯科をやっている。
夫婦で医者ということだ。
受付が共通になっている。
美容整形で通っているときに、ガラス越しに歯科の診察台が見える。
しばらく歯石を取っていなかったので、受付で待っている間に、歯科の予約を入れることにした。

予約を入れた日に予約の時間に歯科に入った。
午前11時だったと思う。
診察台に案内され、横になる。

横になって、少し待っていると、マスクの顔が目の前に現れた。
年配の男性である。
美容整形の女医さんの旦那さんなのだろう。

｢若い女性のスタッフを期待されたかもしれませんが、私がやります｣
いきなり、そう言われても、意味が初めは分からなかった。
人から話されるときは、状況からどういうことを聞かれるかを考えることが多い。
この場合は、こういう発言のメニューは、なかった。

「えっ」と思わず聞き直す。

「いったん診察台に寝たら、あきらめてもらわんとね」
まるで、吉本のギャグではないか。

「私自身のぼけ防止でやっていますから」
と追い打ちをかけてくる。

まぁ、難しい手術をするわけではなく、たかだか歯の掃除なので、大丈夫だろう、と自分に言い聞かせる。

はぁ、お願いしますと返事するしかない。

「時間はありますか」と、さらに聞いてくる。
「はい、昼までは大丈夫です」
「そうですか。それでは始めますね」

施術中は、ことさら痛いとか、出血するとか、という問題もなく進む。
その間、1人も患者は入ってこない。

やたら丁寧である。
なにしろ時間はふんだんにある。
こちらは、昼から仕事なので、食事をする時間を考えている。

1時間はたっぷり歯の掃除をし、途中でいろいろ説明もやっていただける。
たまにしかやらない歯石取りであるので、丁寧にやってもらうに越したことはないと、自分を納得させる。

今、思い出してみて、あの歯医者さんはお元気なのだろうかと、考えることがある。