ふたたび モンク(4)
- 2015/08/18
- 00:00
”モンク、ロックコンサートに行く”の第3回だ。
いよいよ本格的な死体発見現場での検証が始まる。
警部と警部補、それにモンクとナタリーは簡易トイレの場所に戻ってくる。
殺されたスタッフの恋人も、もう一度、メンバーに加わっている。
真相を知りたいのだ。
ただ、本格的な捜査と言っても、鑑識の専門家もいない。
野外コンサートの会場なので、ここにいる者だけでできる範囲でやろうというところだ。
簡易トイレの周りには、まがりなりにもロープが張られている。
モンクは間違えて簡易トイレに入ってしまったときに、ここは生き地獄であると、この場所に恐怖心を持っているので、簡易トイレには近づかない。
ロープの中には入らないのだ。
少し離れたところ、そこは緩やかな斜面の途中なので、簡易トイレを見下ろす場所になる。
そこからトランシーバで警部とやりとりをしながら、現場検証をすることになる。
警部は,トランシーバでのやりとりがまどろっこしいので、もっと近くに来てみてくれないかと、モンクに言うが、モンクは頑なに拒絶している。
死体は密室状態で見つかっている。
まずその密室を解明しなければ、殺人事件とはならない。
自分で簡易トイレに入って、そこで注射器で麻薬を自分で打ち、その結果、過剰摂取で死んでしまったということであれば、単なる事故死である。
警部がドアの鍵をチェックしながらトランシーバで言う。
「トイレの鍵のところに傷があるぞ。どうぞ」
「それは新しい傷ですか。どうぞ」とモンクが返事をする。
トランシーバなので、自分の発言の後には、必ず“どうぞ”を言うことになる。
「傷は、新しい。どうぞ」
「トイレの上に通風口はないですか。どうぞ」
警部が、トイレの横に周り、その上に通風口があるのを見つける。
「通風口があるぞ。どうぞ」
警部がトイレの中を探すと、銀色の紐状のものが見つかる。
「これはなんだ」
警部が最後に”どうぞ”と言わない。
モンクはそれを気にして、「警部、どうぞ、がありません、どうぞ」と言う。
何事にも几帳面な潔癖症のモンクは、こういう規則を守らないことを許せないところがある。
だが、警部は、もうそれには気が回っていない。
警部が手に持っているものは、なんだろう。
一緒にいた息子がそれを見て、これは12弦ギターの弦であるという。
しかもハイDの弦だという。
通常のギターの弦の数は6本である。
低い音から、ミ、ラ、レ、ソ、シ、ミという順番だ。
E-A-D-G-B-E という。
12弦ギターの場合、6弦から3弦まで(低い音から4つの弦)は、1オクターブ高い弦が使われている。
残り2つの弦、1弦と2弦は、同じ弦が使われている。
これは,僕自身、今回調べて、はじめて知ったことだ。
学生時代にギターは弾いていたが、12弦ギターは憧れのままだ。
ハイDの弦というのは、下の音から、3番目、4弦の1オクターブ高い弦ということになる。
警部の息子は,相当ギターをやっているのだろうね。
弦を見てすぐにそれがハイDの弦というのだから。
しかも,今回のロックコンサートで12弦ギターを使っているのは、ロックスターのクリス・ゲターだけだという。
クリスが12弦ギターで演奏しているのは、今度出す新曲だ。
その新曲のギターソロがしびれると、警部補は、エアーギターを演奏しながら言う。
新曲をすでに知っているところもすごいが、警部補が、ロープを張っている中で、現場検証の最中にそういう格好をする、そういういい加減なところ、自由なところが、”名探偵モンク”のいいところでもある。
堅苦しい警察ではないのだ。
あるときは、モンクのほうが杓子定規で規則を遵守している。
ロープの中では、真相に大きく近づく発見があったのだ。
そのとき少し離れたところにいるモンクは、依然としてトランシーバを片手に、
「次は警部です。どうぞ」と警部が”どうぞ”を言わないで、切ったトランシーバにこだわっている。
12弦ギターの弦は、簡易トイレの密室を作るのに使われたのだ。
簡易トイレの鍵の内側に弦をひっかけて、それを簡易トイレの通風口から外に引っ張り出す。
外から弦を引っ張ると、鍵が閉まる仕組みができあがる。
これはそれほど難しいトリックではない。
古典的な密室トリックである。
ただ、密室はできあがるが、弦が、証拠として簡易トイレの中に残ってしまう。
12弦ギターの弦を言い当てた、息子に警部は、言う。
「二人は名コンビだな」
父親が弦を発見し、息子がそれを12弦ギターの弦であり、しかも弦の所有者までもが分かったのだ。
二人が大手柄を立てようとしている。
これをきっかけに、父親としては、息子との仲をよくしたいのだ。
ところが、そのとき、目の前の柱に貼ってある紙に、息子が気がつく。
それは”家出少年を探している”という張り紙だ。
警部が会場に入るときに、息子を探しているとセキュリティに言ったところ、息子の写真がないかと尋ねられ、財布の中から、息子の写真を取り出して渡している。
その写真をコピーして、”家出少年”の張り紙ができあがったのだ。
問題は、その写真で、それは息子がまだ小学校の低学年の頃のものだ。
家族と一緒に旅行して魚を釣り上げたときの写真だ。
写真を渡されたセキュリティの太った男性も言っている。
「これが16歳ですか」
息子は、張り紙の写真を見て、こんな昔の写真しか持っていないのかと、警部を責める。
「パパは、新しいママの事ばかり考えているのだろう」と言う。
警部には、再婚を考えている女性がいるのだ。
ちなみに家出少年の張り紙には、”RUNAWAY BOY”と書いてあったように見えた。
でも、子供の写真を財布に入れているというのは、アメリカらしいね。
モンクと、ナタリー、それと殺されたスタッフの恋人の三人は、12弦ギターの持ち主である、ロックスターのクリスのところに行く。
ちょうどクリスは、仲間とステージの裏で、12弦ギターを弾いていた。
新作を一人でギターを弾きながら歌っている。
次のステージで歌う新曲だ。
娘のペギーがテネシーに行ってしまった。
俺はサインをして一人で残っている、というようなフレーズを一人で歌う。
殺されたスタッフの恋人が、モンクとナタリーをクリスに紹介する。
警察関係者で、死んだスタッフの調査に来ていると言う。
「あいつは、薬を打って死んだのだろう」とクリスが言う。
「殺人の可能性がでてきているのです」とモンクが説明する。
「死体発見現場で12弦ギターの弦が見つかりました。
それはあなたのギターのものではないですか」とモンクが詰め寄る。
クリスは、ギターケースには鍵がかけていないから、誰でも持って行けると、さらりと流してしまう。
「あなたの靴は泥だらけですね。
他のスタッフのみなさんの靴はきれいなのに」とモンクはきっかけを掴もうと、さらに問いただす。
それに対しても、あなたの靴も泥だらけだね、とモンクの靴を指さす。
まともに相手をしていない、ふざけた態度だ。
モンクがギターを弾いているクリスの音を聴いて、音があっていない、と言う。
ミュージシャンとしてのプライドに触れたのか、それに対して、はじめて真面目に言う。
「なにか楽器をやっているのかい」
「クラリネットをすこし」とモンクが言うと、またまたふざけて、
「じゃ、一緒にセッションをしよう。俺が86歳になったら」
と周りにいる仲間と一緒に、モンクを小馬鹿にしたように笑う。
殺されたスタッフの恋人は、クリスには好感を持っていない。
恋人からそのことを聴いていたのかもしれない。
モンクが、彼女に、彼の住んでいたところを見たいという。
「いいわよ、キャンピングカーに行きましょう」
するとクリスが、そのことが気になるのか、「鍵は持っているのか」と言う。
「いつも彼から預かっていたから持っているわ」と、彼女は、私はあなたとは違うということを強調して言う。
すると、クリスもなぜか、「気になるから一緒に行く」とついてくる。
殺人犯としては、捜査が自分のところに近づいてきていることを気にし始めている。
証拠らしいものは12弦ギターの弦だけ。
でもそれだけでは犯人と特定できるものではないのだが、やはり気になる。
殺したスタッフが住んでいたキャンピングカーの中を一緒に見てみようと言う気になったのだ。
考えてみると、こういう聞き取りは、本来は警部がやるべき仕事だと思うのだけど、モンクは元刑事でもあり、警部にも信頼されているから、完全に任されているのだろうね
いよいよ犯人逮捕に近づく証拠探しに進むのだ。
えらい長い話になってしまった。
(まだつづく)
。
いよいよ本格的な死体発見現場での検証が始まる。
警部と警部補、それにモンクとナタリーは簡易トイレの場所に戻ってくる。
殺されたスタッフの恋人も、もう一度、メンバーに加わっている。
真相を知りたいのだ。
ただ、本格的な捜査と言っても、鑑識の専門家もいない。
野外コンサートの会場なので、ここにいる者だけでできる範囲でやろうというところだ。
簡易トイレの周りには、まがりなりにもロープが張られている。
モンクは間違えて簡易トイレに入ってしまったときに、ここは生き地獄であると、この場所に恐怖心を持っているので、簡易トイレには近づかない。
ロープの中には入らないのだ。
少し離れたところ、そこは緩やかな斜面の途中なので、簡易トイレを見下ろす場所になる。
そこからトランシーバで警部とやりとりをしながら、現場検証をすることになる。
警部は,トランシーバでのやりとりがまどろっこしいので、もっと近くに来てみてくれないかと、モンクに言うが、モンクは頑なに拒絶している。
死体は密室状態で見つかっている。
まずその密室を解明しなければ、殺人事件とはならない。
自分で簡易トイレに入って、そこで注射器で麻薬を自分で打ち、その結果、過剰摂取で死んでしまったということであれば、単なる事故死である。
警部がドアの鍵をチェックしながらトランシーバで言う。
「トイレの鍵のところに傷があるぞ。どうぞ」
「それは新しい傷ですか。どうぞ」とモンクが返事をする。
トランシーバなので、自分の発言の後には、必ず“どうぞ”を言うことになる。
「傷は、新しい。どうぞ」
「トイレの上に通風口はないですか。どうぞ」
警部が、トイレの横に周り、その上に通風口があるのを見つける。
「通風口があるぞ。どうぞ」
警部がトイレの中を探すと、銀色の紐状のものが見つかる。
「これはなんだ」
警部が最後に”どうぞ”と言わない。
モンクはそれを気にして、「警部、どうぞ、がありません、どうぞ」と言う。
何事にも几帳面な潔癖症のモンクは、こういう規則を守らないことを許せないところがある。
だが、警部は、もうそれには気が回っていない。
警部が手に持っているものは、なんだろう。
一緒にいた息子がそれを見て、これは12弦ギターの弦であるという。
しかもハイDの弦だという。
通常のギターの弦の数は6本である。
低い音から、ミ、ラ、レ、ソ、シ、ミという順番だ。
E-A-D-G-B-E という。
12弦ギターの場合、6弦から3弦まで(低い音から4つの弦)は、1オクターブ高い弦が使われている。
残り2つの弦、1弦と2弦は、同じ弦が使われている。
これは,僕自身、今回調べて、はじめて知ったことだ。
学生時代にギターは弾いていたが、12弦ギターは憧れのままだ。
ハイDの弦というのは、下の音から、3番目、4弦の1オクターブ高い弦ということになる。
警部の息子は,相当ギターをやっているのだろうね。
弦を見てすぐにそれがハイDの弦というのだから。
しかも,今回のロックコンサートで12弦ギターを使っているのは、ロックスターのクリス・ゲターだけだという。
クリスが12弦ギターで演奏しているのは、今度出す新曲だ。
その新曲のギターソロがしびれると、警部補は、エアーギターを演奏しながら言う。
新曲をすでに知っているところもすごいが、警部補が、ロープを張っている中で、現場検証の最中にそういう格好をする、そういういい加減なところ、自由なところが、”名探偵モンク”のいいところでもある。
堅苦しい警察ではないのだ。
あるときは、モンクのほうが杓子定規で規則を遵守している。
ロープの中では、真相に大きく近づく発見があったのだ。
そのとき少し離れたところにいるモンクは、依然としてトランシーバを片手に、
「次は警部です。どうぞ」と警部が”どうぞ”を言わないで、切ったトランシーバにこだわっている。
12弦ギターの弦は、簡易トイレの密室を作るのに使われたのだ。
簡易トイレの鍵の内側に弦をひっかけて、それを簡易トイレの通風口から外に引っ張り出す。
外から弦を引っ張ると、鍵が閉まる仕組みができあがる。
これはそれほど難しいトリックではない。
古典的な密室トリックである。
ただ、密室はできあがるが、弦が、証拠として簡易トイレの中に残ってしまう。
12弦ギターの弦を言い当てた、息子に警部は、言う。
「二人は名コンビだな」
父親が弦を発見し、息子がそれを12弦ギターの弦であり、しかも弦の所有者までもが分かったのだ。
二人が大手柄を立てようとしている。
これをきっかけに、父親としては、息子との仲をよくしたいのだ。
ところが、そのとき、目の前の柱に貼ってある紙に、息子が気がつく。
それは”家出少年を探している”という張り紙だ。
警部が会場に入るときに、息子を探しているとセキュリティに言ったところ、息子の写真がないかと尋ねられ、財布の中から、息子の写真を取り出して渡している。
その写真をコピーして、”家出少年”の張り紙ができあがったのだ。
問題は、その写真で、それは息子がまだ小学校の低学年の頃のものだ。
家族と一緒に旅行して魚を釣り上げたときの写真だ。
写真を渡されたセキュリティの太った男性も言っている。
「これが16歳ですか」
息子は、張り紙の写真を見て、こんな昔の写真しか持っていないのかと、警部を責める。
「パパは、新しいママの事ばかり考えているのだろう」と言う。
警部には、再婚を考えている女性がいるのだ。
ちなみに家出少年の張り紙には、”RUNAWAY BOY”と書いてあったように見えた。
でも、子供の写真を財布に入れているというのは、アメリカらしいね。
モンクと、ナタリー、それと殺されたスタッフの恋人の三人は、12弦ギターの持ち主である、ロックスターのクリスのところに行く。
ちょうどクリスは、仲間とステージの裏で、12弦ギターを弾いていた。
新作を一人でギターを弾きながら歌っている。
次のステージで歌う新曲だ。
娘のペギーがテネシーに行ってしまった。
俺はサインをして一人で残っている、というようなフレーズを一人で歌う。
殺されたスタッフの恋人が、モンクとナタリーをクリスに紹介する。
警察関係者で、死んだスタッフの調査に来ていると言う。
「あいつは、薬を打って死んだのだろう」とクリスが言う。
「殺人の可能性がでてきているのです」とモンクが説明する。
「死体発見現場で12弦ギターの弦が見つかりました。
それはあなたのギターのものではないですか」とモンクが詰め寄る。
クリスは、ギターケースには鍵がかけていないから、誰でも持って行けると、さらりと流してしまう。
「あなたの靴は泥だらけですね。
他のスタッフのみなさんの靴はきれいなのに」とモンクはきっかけを掴もうと、さらに問いただす。
それに対しても、あなたの靴も泥だらけだね、とモンクの靴を指さす。
まともに相手をしていない、ふざけた態度だ。
モンクがギターを弾いているクリスの音を聴いて、音があっていない、と言う。
ミュージシャンとしてのプライドに触れたのか、それに対して、はじめて真面目に言う。
「なにか楽器をやっているのかい」
「クラリネットをすこし」とモンクが言うと、またまたふざけて、
「じゃ、一緒にセッションをしよう。俺が86歳になったら」
と周りにいる仲間と一緒に、モンクを小馬鹿にしたように笑う。
殺されたスタッフの恋人は、クリスには好感を持っていない。
恋人からそのことを聴いていたのかもしれない。
モンクが、彼女に、彼の住んでいたところを見たいという。
「いいわよ、キャンピングカーに行きましょう」
するとクリスが、そのことが気になるのか、「鍵は持っているのか」と言う。
「いつも彼から預かっていたから持っているわ」と、彼女は、私はあなたとは違うということを強調して言う。
すると、クリスもなぜか、「気になるから一緒に行く」とついてくる。
殺人犯としては、捜査が自分のところに近づいてきていることを気にし始めている。
証拠らしいものは12弦ギターの弦だけ。
でもそれだけでは犯人と特定できるものではないのだが、やはり気になる。
殺したスタッフが住んでいたキャンピングカーの中を一緒に見てみようと言う気になったのだ。
考えてみると、こういう聞き取りは、本来は警部がやるべき仕事だと思うのだけど、モンクは元刑事でもあり、警部にも信頼されているから、完全に任されているのだろうね
いよいよ犯人逮捕に近づく証拠探しに進むのだ。
えらい長い話になってしまった。
(まだつづく)
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