決闘!井の頭公園(2)
- 2015/08/27
- 00:00
当日の昼前に、アパートに行くと、Kさんはきれいに部屋を掃除している。
僕はバイトで行っていた和菓子屋のおはぎを買って持ち込んだ。
ホームこたつの上に包みを広げる。
当時は、一人住まいの下宿やアパートではホームこたつが定番だ。
あるときは食卓に、ときには麻雀卓に、そしてごくまれには勉強机にもなる。
おはぎは、合計30個買ってきた。
お金は後で割り勘である。
二人だけの真剣勝負だ。
ホームこたつの上には、おはぎと湯飲みが2つ。
それときゅうすが置いてある。
お茶は必須だ。
いよいよ戦闘開始。
それでは、始めますか、とKさんが大げさに言う。
普段は物静かなKさんの太い声が、戦闘開始の合図となる。
ひとつめ。
味あいながら、口の中で咀嚼する。
ここのおはぎは毎度のことながら、おいしい。
しかも1つの大きさが平均的なおはぎよりも大きい。
大きめのおにぎりくらいある。
Kさんはすでに2つ目に入った。
スピードを競うわけではないので、僕はゆっくりと2つ目を口の中に入れる。
普通なら、これくらいで終わりだろう。
もう一つ食べたいけど止めておこう、というところだ。
だが、今日は違う。
時間無制限一本勝負。
多いほうが勝ちだ。
3つ目を口に運ぶ。
Kさんはすでに3つ目を終えて、4つ目に手が伸びている。
あまり差が開くのもまずい。
すこし急ごう。
味を楽しむのは、今日はやめだ。
4つ目、5つ目と進む。
だんだんとおはぎの味が分からなくなる。
これでは味を楽しもうと言っても、無理だ。
過ぎたるは及ばざるがごとし。
という言葉が思い出される。
これは誰が言い始めた言葉だろう。
関係のないことが頭の中を走る。
Kさんはすでに6つ目だ。
だんだんと差が開いていく。
お茶を飲む回数が増えてくる。
7つ目。
かなり苦しくなってきた。
でも頑張る。
Kさんは8つ目が終わっている。
1つを食べる時間も長くなる。
そもそも味も分からなくなっているので、ひたすら喉を通るように、元のおはぎの形をくずすために、口を動かしているだけだ。
もうあかんかもしれん。
と思いながら、8つ目に手を伸ばす。
Kさんも苦しそうだが、10個目が口の中に入るところだ。
僕は、8つ目が口の中で停滞している。
なかなか先に進まない。
先につかえて、渋滞しているわけではないが、進まない。
またお茶を飲む。
無理に流し込むように、喉の奥におはぎを押し進める。
やっとの思いで、8個目が喉を通り過ぎ、食道に向かって落ちていく。
Kさんは、11個目を放り込む。
Kさんもそろそろ限界だろう。
気のせいか、涙目に見える。
僕も同じように見えているのかもしれない。
とうとう、白旗である。
畳の上に、大の字になって、体を伸ばす。
負けましたとKさんに向かって、寝ころんだ姿勢のまま言う。
Kさんは、まだ頑張っている。
年の功か。
と言っても、3歳くらいしか差がないのだ。
Kさんは12個まで行った。
結局8対12で、Kさんの勝ち。
僕の完敗だ。
全くの馬鹿げた決闘は、こうして終わりを告げる。
もうおはぎの顔は見たくもない。
おはぎは大分残ってしまった。
残ったおはぎは、スナックの常連客のみなさんへのおみやげとなった。
この日は、いい天気の春の日だった。
僕はバイトで行っていた和菓子屋のおはぎを買って持ち込んだ。
ホームこたつの上に包みを広げる。
当時は、一人住まいの下宿やアパートではホームこたつが定番だ。
あるときは食卓に、ときには麻雀卓に、そしてごくまれには勉強机にもなる。
おはぎは、合計30個買ってきた。
お金は後で割り勘である。
二人だけの真剣勝負だ。
ホームこたつの上には、おはぎと湯飲みが2つ。
それときゅうすが置いてある。
お茶は必須だ。
いよいよ戦闘開始。
それでは、始めますか、とKさんが大げさに言う。
普段は物静かなKさんの太い声が、戦闘開始の合図となる。
ひとつめ。
味あいながら、口の中で咀嚼する。
ここのおはぎは毎度のことながら、おいしい。
しかも1つの大きさが平均的なおはぎよりも大きい。
大きめのおにぎりくらいある。
Kさんはすでに2つ目に入った。
スピードを競うわけではないので、僕はゆっくりと2つ目を口の中に入れる。
普通なら、これくらいで終わりだろう。
もう一つ食べたいけど止めておこう、というところだ。
だが、今日は違う。
時間無制限一本勝負。
多いほうが勝ちだ。
3つ目を口に運ぶ。
Kさんはすでに3つ目を終えて、4つ目に手が伸びている。
あまり差が開くのもまずい。
すこし急ごう。
味を楽しむのは、今日はやめだ。
4つ目、5つ目と進む。
だんだんとおはぎの味が分からなくなる。
これでは味を楽しもうと言っても、無理だ。
過ぎたるは及ばざるがごとし。
という言葉が思い出される。
これは誰が言い始めた言葉だろう。
関係のないことが頭の中を走る。
Kさんはすでに6つ目だ。
だんだんと差が開いていく。
お茶を飲む回数が増えてくる。
7つ目。
かなり苦しくなってきた。
でも頑張る。
Kさんは8つ目が終わっている。
1つを食べる時間も長くなる。
そもそも味も分からなくなっているので、ひたすら喉を通るように、元のおはぎの形をくずすために、口を動かしているだけだ。
もうあかんかもしれん。
と思いながら、8つ目に手を伸ばす。
Kさんも苦しそうだが、10個目が口の中に入るところだ。
僕は、8つ目が口の中で停滞している。
なかなか先に進まない。
先につかえて、渋滞しているわけではないが、進まない。
またお茶を飲む。
無理に流し込むように、喉の奥におはぎを押し進める。
やっとの思いで、8個目が喉を通り過ぎ、食道に向かって落ちていく。
Kさんは、11個目を放り込む。
Kさんもそろそろ限界だろう。
気のせいか、涙目に見える。
僕も同じように見えているのかもしれない。
とうとう、白旗である。
畳の上に、大の字になって、体を伸ばす。
負けましたとKさんに向かって、寝ころんだ姿勢のまま言う。
Kさんは、まだ頑張っている。
年の功か。
と言っても、3歳くらいしか差がないのだ。
Kさんは12個まで行った。
結局8対12で、Kさんの勝ち。
僕の完敗だ。
全くの馬鹿げた決闘は、こうして終わりを告げる。
もうおはぎの顔は見たくもない。
おはぎは大分残ってしまった。
残ったおはぎは、スナックの常連客のみなさんへのおみやげとなった。
この日は、いい天気の春の日だった。
