胸にしこり(2)
- 2015/10/21
- 00:00
待合室にひとりで待っていると、Y君が顔を出して、診察室に呼び入れる。
もうひとり若い先生が横についている。
先ず胸のエコーを撮る。
撮った写真を見ながら、Y君がうなずいている。
僕の胸を見る。
こう切ろうか、とつぶやきながら、胸を触る。
Y君は今では、私立の病院長になっているが、確かに優秀な外科医である。
当時も僕の仲間内でも、切るのがうまいと言われていて、中年にさしかかった頃ではあったが、手術が必要な同期の連中は、みんなY君の世話になっていた。
いまでは、なかなか診てもらえないくらい評判だという。
僕はそのときも、Y君を信頼していたので、安心してまかせていた。
写真を見ると結構大きい腫瘍のようなものが胸の乳の部分にある。
僕は診察室のベッドに横になる。
ここで手術だ。
局部麻酔を打たれる。
執刀するのは、横にいた若い医師になるようだ。
Y君はもっぱら若い医師に指導する立場である。
なんか、話が違うような気もするが、いまさら文句は言えない。
胸のあたりから上半身全体に布がかけられる。
乳のあたりだけが丸く開いている。
いよいよメスが入る。
生まれて、初めて身体にメスを入れることになる。
「痛かったら言えよ」とY君が言う。
彼はいつも、ざっくばらんな口調なのだ。
若い医師がメスを進める。
たらこくらいの大きさなので、メスが入る長さもそこそこ長いのだ。
なにしろ初めてのことで、どれくらいが痛いのかが、分からない。
基準が僕の中には出来ていない。
違和感があったので、「痛い、痛い」と言う。
Y君が「おまえ、痛がりやな」と言い返す。
どういうこっちゃ。
ついに足の指先から点滴が入ることになった。
なにかまずいことが起こっているのだろうか。
でも、点滴の目的を確かめる余裕はない。
早く終わってくれと祈るばかりだ。
Y君の指導を信じるしかない。
ようやく手術が終わる。
切除した腫瘍の塊を見せてくれる。
まさに明太子の柔らかいものだ。
しばらく休んでいけばいいと言われて、2階の病室に移動して、1時間ほど寝る。
その後は、自分で車を運転して引き上げた。
こうして僕の初めての身体にメスが入る手術は終わった。
(つづく)
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もうひとり若い先生が横についている。
先ず胸のエコーを撮る。
撮った写真を見ながら、Y君がうなずいている。
僕の胸を見る。
こう切ろうか、とつぶやきながら、胸を触る。
Y君は今では、私立の病院長になっているが、確かに優秀な外科医である。
当時も僕の仲間内でも、切るのがうまいと言われていて、中年にさしかかった頃ではあったが、手術が必要な同期の連中は、みんなY君の世話になっていた。
いまでは、なかなか診てもらえないくらい評判だという。
僕はそのときも、Y君を信頼していたので、安心してまかせていた。
写真を見ると結構大きい腫瘍のようなものが胸の乳の部分にある。
僕は診察室のベッドに横になる。
ここで手術だ。
局部麻酔を打たれる。
執刀するのは、横にいた若い医師になるようだ。
Y君はもっぱら若い医師に指導する立場である。
なんか、話が違うような気もするが、いまさら文句は言えない。
胸のあたりから上半身全体に布がかけられる。
乳のあたりだけが丸く開いている。
いよいよメスが入る。
生まれて、初めて身体にメスを入れることになる。
「痛かったら言えよ」とY君が言う。
彼はいつも、ざっくばらんな口調なのだ。
若い医師がメスを進める。
たらこくらいの大きさなので、メスが入る長さもそこそこ長いのだ。
なにしろ初めてのことで、どれくらいが痛いのかが、分からない。
基準が僕の中には出来ていない。
違和感があったので、「痛い、痛い」と言う。
Y君が「おまえ、痛がりやな」と言い返す。
どういうこっちゃ。
ついに足の指先から点滴が入ることになった。
なにかまずいことが起こっているのだろうか。
でも、点滴の目的を確かめる余裕はない。
早く終わってくれと祈るばかりだ。
Y君の指導を信じるしかない。
ようやく手術が終わる。
切除した腫瘍の塊を見せてくれる。
まさに明太子の柔らかいものだ。
しばらく休んでいけばいいと言われて、2階の病室に移動して、1時間ほど寝る。
その後は、自分で車を運転して引き上げた。
こうして僕の初めての身体にメスが入る手術は終わった。
(つづく)
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