耳鼻咽喉科(2)
- 2015/10/30
- 00:00
久しぶりに耳鼻咽喉科へ行った。
数日前から中国からのPM2.5の飛来にあわせたように喉の違和感があった。
その翌日は、マスクをつけて家を出た。
まだ10月なので、さすがに電車に乗っても、マスク姿のひとは、それほど多くはない。
こういうときは、市販の風邪薬を飲んで、うがいをする。
それで大抵は収まっていたのが、今回は、どうもしつこい。
一向に収まる気配がなく、昨日は、喉がますます痛くなり、咳も出始めた。
夜は、どうしても抜けられない会合があり、出席する。
いつもだとその後は、2次会に行き、調子に乗るとエンドレスになってしまうのだけど、おとなしく自重して、会合だけで引き上げた。
今朝おきても、収まる気配がなく、朝一番で耳鼻咽喉科へ出かけたのだ。
9時過ぎに医院に入ると、すでに6組くらいの親子ずれが待合室で待っている。
大抵が父親と幼稚園児か、それよりも幼い子供つれである。
父親も若い。
きっと母親は家事をやっているが、あるいはまだ寝ているのか。
真相は分からないが、父親の家庭で活躍する場面が増えたようだ。
僕は、初めて行く医院なので、これに記入してくださいと言われて渡された問診票を書く。
書き終わった後は、待合室の長椅子に座って、目をつむっていた。
父親と子供の声が耳に入る。
若いお父さんは、子供と遊ぶのが慣れている。
子供の喜ぶことを知っている。
子供目線で話しかけて、飽きさせない。
たいしたものだと、耳から入ってくる声を聞きながら感心する。
受付に人が来た気配がする。
目を開けてみる。
若い女性だ。
大きなマスクをしているので、目だけが見えている。
若いといっても、30歳代だろうか。
また目をつむる。
うつらうつらし始める。
浅い眠りに入ったときだった。
近くで子供を叱る母親の声が聞こえる。
診察を終えて出てきたのだろう。
母親のほうが、どうも父親よりもヒステリックだ。
その人にも依るのだろうが、父親でも子育てに向いている人がいるに違いない。
僕は決して、そのグループには入っていない、と考えているときに、名前を呼ばれた。
声の方を見ると、診察室からである。
若いアシスタントの女性が顔を出している。
診察室にはいる。
小さなセカンドバックは、その女性が預かってくれる。
診察室の椅子に座る。
先生も若い。でも40代だろう。
小柄だが、太めだ。
耳鼻咽喉科の技術とは関係ないことである。
先生の顔は、マスクでほとんど隠れていて、目しか見えない。
先生の指示に従い、口をあけて、上を向いて、鼻と口へ薬を入れてもらう。
「風邪でしょう」と言われる。
これは予想とおりのことだ。
「そちらで吸入をしてください」と言われる。
壁際に吸入するテーブルと椅子がある。
テーブルは3人が同時に吸入を受けることが出来るくらいの長さだ。
椅子は3つあるが、いずれも違う色がついている。
会議室の椅子ではない。
小さな子供が好きになりそうな色の椅子。
赤,黄、青の三色。
一番端の椅子に座る。
昔の耳鼻咽喉科の吸入はとても大きくて、勢いのある蒸気が出てきた。
小さい頃は、喉が弱かったので、家にも吸入器がおいてあった。
薬を垂らして、電源を入れると、蒸気が出てくるまでに時間がかかった。
大きな口をあて、あごの下には、なにか受けるものを手に持ってあてがっていた。
しかも大きなタオルを肩からかけて、よだれが垂れてきても服にかからないようにしたものだ。
小さな頃の僕の家の近くの耳鼻咽喉科の先生は名医と言われていた。
Y先生だ。
遠くからも患者さんが来ていた。
小学校の頃は、入院施設もあるような規模の医院だった。
それから大分時間がたって、僕が仕事を始めたころには、息子さんも開業されていた。
科目は違っていたが、同じビルのなかで、親子で開院していた。
名医と言われたY先生は、かなりのお年になっても仕事をされていた。
僕にとって都合がよかったのは、朝は6時から病院を開けておられたことだった。
仕事前に通院し、吸入してから、出張へ出かけたこともあった。
Y先生の医院の吸入器は,家庭用に比べると数倍威力があったように思う。
蒸気の勢いが違う。
それだけ時間あたりの噴出量が違うのか、短時間で終わる。
家庭用だと10分から15分くらいかかるが、Y先生の吸入器だと5分くらいだ。
しかも蒸気のなかの薬が明らかに家庭用のものとは違う。
いかにも効きそうな薬が、勢いのある蒸気と一緒に喉の中に入っていく。
その吸入をするだけで、治ったような気分になる。
実際にそれで相当元気になるのだ。
ところが今日久しぶりにうけた吸入器は、細い管が机の正面にある板からでてくるのだが、その先に器具をつけて、受けるというものだ。
管の先に付ける器具を取り替えて、鼻用、喉用と使い分ける。
管の部分は同じなので、同じ蒸気が出てくるのだろう。
蒸気の勢いもY先生のものとは違う。
おとなしく、細い。
この装置は、3席が一体になっている。
蒸気を出す部分の器具は机のなかに隠されている。
管だけが3本見える。
僕が吸入を始めて、しばらくすると、先ほど待合室にいた若い女性が診察室に入って来た。
考えてみると、耳鼻咽喉科というのは、同じ診察室で知らない者同士が同時に診察を受けたり、吸入をしたりするのだ。
その人がどういう症状かというのは、本当は個人情報に係わる事だろう。
診察の時に、先生が症状について説明する言葉も自然と聞こえてしまう。
だが、所詮耳鼻咽喉科だからよいのだろうか。
肌を出すこともなく、せいぜい風邪の処方なので、問題ないということになっている。
もしも先生が、これは単なる風邪とかではなく、深刻な病気だったらどうするのだろう。
他人がいるところでは説明するのが憚れることも、ごくたまにはあるかもしれない。
そんなことはきっとめったにないので、このような診察形態でも問題なく進んでいるのだろう。
先生がその女性に説明している声が、僕の背中から聞こえてくる。
「それは誰にもわかりませんね」
「いつ治るかは、その人それぞれですので」
言葉は丁寧であるが、はっきりと自信を持って発せられている。
女性の声は、ここまで聞こえてこない。
先生の声だけが聞こえる。
たいした症状ではないですから、心配せんでもよろしい。
いつ治るかなんて、それは薬も出しますので、あなたがおとなしく薬を飲んで、無茶な生活をしなければ、2~3日で治ります。
というところを、できるだけ感情を抑えて、冷静に説明しているような雰囲気だ。
完治する日については、明言すると、自分の生活態度を棚に上げて、先生に治らなかったではないですかとクレームする患者もいるのだろう。
なにしろ最近ではなんでもWEBから情報を取ることができる。
昔は,お医者様の言葉は、神の言葉ではないが、有り難く聴いてもらえたが、最近では、患者がへんに情報ばかり多くもっているので、お医者さんも説明しにくいこともあるに違いない。
うるさくて言うこと聴かん患者が増えたという、医者の本音を聞いたことは数多くある。
先生はできるだけ問題を起こさないように、優しい言葉で、しかも言質を与えないように説明しているのだろう。
僕が鼻の吸入が終わって、喉の吸入をするために、器具の交換を女性のスタッフがするときには、先ほどの診察を受けた若い女性が3つめの椅子に座った。
吸入は、耳鼻咽喉科での診療には必須のものなので、こんな形で効率よく進めていくことになる。
思ったよりも早く、初めての医院での診療は終わった。
受付で処方箋をもらい、支払を済ませて、外に出た。
すぐ目の前が薬局である。
薬局にも順番待ちの人が何人かいる。
繁盛している薬局なのだろう。
働いているひとも6人くらいいる。
お薬手帳をもっていますか。
はい、家にあります。
定番のやりとりがある。
今日もこうやってお薬手帳をもらうのである。
これで何冊目だろう。
次からはお薬手帳を持って行くようにしよう。
薬をもらって時計をみると医院に入ってから1時間だった。
医院の中に入ってから、薬局で薬をもらうまでのコースを通るだけで、随分よくなったような気持になるから不思議だ。
病は気からという。
その気になって、早く治そう。

数日前から中国からのPM2.5の飛来にあわせたように喉の違和感があった。
その翌日は、マスクをつけて家を出た。
まだ10月なので、さすがに電車に乗っても、マスク姿のひとは、それほど多くはない。
こういうときは、市販の風邪薬を飲んで、うがいをする。
それで大抵は収まっていたのが、今回は、どうもしつこい。
一向に収まる気配がなく、昨日は、喉がますます痛くなり、咳も出始めた。
夜は、どうしても抜けられない会合があり、出席する。
いつもだとその後は、2次会に行き、調子に乗るとエンドレスになってしまうのだけど、おとなしく自重して、会合だけで引き上げた。
今朝おきても、収まる気配がなく、朝一番で耳鼻咽喉科へ出かけたのだ。
9時過ぎに医院に入ると、すでに6組くらいの親子ずれが待合室で待っている。
大抵が父親と幼稚園児か、それよりも幼い子供つれである。
父親も若い。
きっと母親は家事をやっているが、あるいはまだ寝ているのか。
真相は分からないが、父親の家庭で活躍する場面が増えたようだ。
僕は、初めて行く医院なので、これに記入してくださいと言われて渡された問診票を書く。
書き終わった後は、待合室の長椅子に座って、目をつむっていた。
父親と子供の声が耳に入る。
若いお父さんは、子供と遊ぶのが慣れている。
子供の喜ぶことを知っている。
子供目線で話しかけて、飽きさせない。
たいしたものだと、耳から入ってくる声を聞きながら感心する。
受付に人が来た気配がする。
目を開けてみる。
若い女性だ。
大きなマスクをしているので、目だけが見えている。
若いといっても、30歳代だろうか。
また目をつむる。
うつらうつらし始める。
浅い眠りに入ったときだった。
近くで子供を叱る母親の声が聞こえる。
診察を終えて出てきたのだろう。
母親のほうが、どうも父親よりもヒステリックだ。
その人にも依るのだろうが、父親でも子育てに向いている人がいるに違いない。
僕は決して、そのグループには入っていない、と考えているときに、名前を呼ばれた。
声の方を見ると、診察室からである。
若いアシスタントの女性が顔を出している。
診察室にはいる。
小さなセカンドバックは、その女性が預かってくれる。
診察室の椅子に座る。
先生も若い。でも40代だろう。
小柄だが、太めだ。
耳鼻咽喉科の技術とは関係ないことである。
先生の顔は、マスクでほとんど隠れていて、目しか見えない。
先生の指示に従い、口をあけて、上を向いて、鼻と口へ薬を入れてもらう。
「風邪でしょう」と言われる。
これは予想とおりのことだ。
「そちらで吸入をしてください」と言われる。
壁際に吸入するテーブルと椅子がある。
テーブルは3人が同時に吸入を受けることが出来るくらいの長さだ。
椅子は3つあるが、いずれも違う色がついている。
会議室の椅子ではない。
小さな子供が好きになりそうな色の椅子。
赤,黄、青の三色。
一番端の椅子に座る。
昔の耳鼻咽喉科の吸入はとても大きくて、勢いのある蒸気が出てきた。
小さい頃は、喉が弱かったので、家にも吸入器がおいてあった。
薬を垂らして、電源を入れると、蒸気が出てくるまでに時間がかかった。
大きな口をあて、あごの下には、なにか受けるものを手に持ってあてがっていた。
しかも大きなタオルを肩からかけて、よだれが垂れてきても服にかからないようにしたものだ。
小さな頃の僕の家の近くの耳鼻咽喉科の先生は名医と言われていた。
Y先生だ。
遠くからも患者さんが来ていた。
小学校の頃は、入院施設もあるような規模の医院だった。
それから大分時間がたって、僕が仕事を始めたころには、息子さんも開業されていた。
科目は違っていたが、同じビルのなかで、親子で開院していた。
名医と言われたY先生は、かなりのお年になっても仕事をされていた。
僕にとって都合がよかったのは、朝は6時から病院を開けておられたことだった。
仕事前に通院し、吸入してから、出張へ出かけたこともあった。
Y先生の医院の吸入器は,家庭用に比べると数倍威力があったように思う。
蒸気の勢いが違う。
それだけ時間あたりの噴出量が違うのか、短時間で終わる。
家庭用だと10分から15分くらいかかるが、Y先生の吸入器だと5分くらいだ。
しかも蒸気のなかの薬が明らかに家庭用のものとは違う。
いかにも効きそうな薬が、勢いのある蒸気と一緒に喉の中に入っていく。
その吸入をするだけで、治ったような気分になる。
実際にそれで相当元気になるのだ。
ところが今日久しぶりにうけた吸入器は、細い管が机の正面にある板からでてくるのだが、その先に器具をつけて、受けるというものだ。
管の先に付ける器具を取り替えて、鼻用、喉用と使い分ける。
管の部分は同じなので、同じ蒸気が出てくるのだろう。
蒸気の勢いもY先生のものとは違う。
おとなしく、細い。
この装置は、3席が一体になっている。
蒸気を出す部分の器具は机のなかに隠されている。
管だけが3本見える。
僕が吸入を始めて、しばらくすると、先ほど待合室にいた若い女性が診察室に入って来た。
考えてみると、耳鼻咽喉科というのは、同じ診察室で知らない者同士が同時に診察を受けたり、吸入をしたりするのだ。
その人がどういう症状かというのは、本当は個人情報に係わる事だろう。
診察の時に、先生が症状について説明する言葉も自然と聞こえてしまう。
だが、所詮耳鼻咽喉科だからよいのだろうか。
肌を出すこともなく、せいぜい風邪の処方なので、問題ないということになっている。
もしも先生が、これは単なる風邪とかではなく、深刻な病気だったらどうするのだろう。
他人がいるところでは説明するのが憚れることも、ごくたまにはあるかもしれない。
そんなことはきっとめったにないので、このような診察形態でも問題なく進んでいるのだろう。
先生がその女性に説明している声が、僕の背中から聞こえてくる。
「それは誰にもわかりませんね」
「いつ治るかは、その人それぞれですので」
言葉は丁寧であるが、はっきりと自信を持って発せられている。
女性の声は、ここまで聞こえてこない。
先生の声だけが聞こえる。
たいした症状ではないですから、心配せんでもよろしい。
いつ治るかなんて、それは薬も出しますので、あなたがおとなしく薬を飲んで、無茶な生活をしなければ、2~3日で治ります。
というところを、できるだけ感情を抑えて、冷静に説明しているような雰囲気だ。
完治する日については、明言すると、自分の生活態度を棚に上げて、先生に治らなかったではないですかとクレームする患者もいるのだろう。
なにしろ最近ではなんでもWEBから情報を取ることができる。
昔は,お医者様の言葉は、神の言葉ではないが、有り難く聴いてもらえたが、最近では、患者がへんに情報ばかり多くもっているので、お医者さんも説明しにくいこともあるに違いない。
うるさくて言うこと聴かん患者が増えたという、医者の本音を聞いたことは数多くある。
先生はできるだけ問題を起こさないように、優しい言葉で、しかも言質を与えないように説明しているのだろう。
僕が鼻の吸入が終わって、喉の吸入をするために、器具の交換を女性のスタッフがするときには、先ほどの診察を受けた若い女性が3つめの椅子に座った。
吸入は、耳鼻咽喉科での診療には必須のものなので、こんな形で効率よく進めていくことになる。
思ったよりも早く、初めての医院での診療は終わった。
受付で処方箋をもらい、支払を済ませて、外に出た。
すぐ目の前が薬局である。
薬局にも順番待ちの人が何人かいる。
繁盛している薬局なのだろう。
働いているひとも6人くらいいる。
お薬手帳をもっていますか。
はい、家にあります。
定番のやりとりがある。
今日もこうやってお薬手帳をもらうのである。
これで何冊目だろう。
次からはお薬手帳を持って行くようにしよう。
薬をもらって時計をみると医院に入ってから1時間だった。
医院の中に入ってから、薬局で薬をもらうまでのコースを通るだけで、随分よくなったような気持になるから不思議だ。
病は気からという。
その気になって、早く治そう。
