”への期待”の話
- 2016/01/24
- 00:00
“への期待”を考えてみたよ。
……… どんな筋なの。
筋と言っても、一応入社試験の論文ということを前提にしたからね。
…….. 別にそのことにこだわらなくてもいいのに。
でも、なにもなくていきなり“への期待”というのは書いてみようとは思わないだろう。
……… まぁ、それはそうだけど、、、、で、どんな書き出しなの。初めの掴みが大事だよね。
そんなプレッシャーをかけるなって。緊張して臨んだ試験のなかでの作文ということだからね。
時間も限られているから。
~~~~~~~~~~~~
年の初め、毎年1月には、各地区ごとに社員が一堂に会したキックオフミーティングが開催された。
キックオフミーティングでは、社員だけでなく、お客様も数は多くはないが、招待されて会場に来られている。
会場は1000人規模の席数を有する大きな劇場だ。
前半は、いろいろなゲストによるスピーチが続く。
昨年度に優秀な成績をあげた営業が表彰される。
営業だけではなく、技術担当者も表彰される。
表彰式が終わると、恒例のスキットが始まる。
その年のタイトルは、“太閤記”である。
毎年スキットのタイトルは、前の年のNHK大河ドラマから取ってくる。
主役は、本事業部の副事業部長だ。
毎年スキットの台本を書いている人だ。
全体で60分くらいのスキットである。
アドリブの場面もあるが、大筋、台本とおりに話が進んでいく。
副事業部長が太閤役である。
太閤役は舞台に出ずっぱりだ。
もうひとり出ずっぱりの役がある。
この太閤記では、淀の君である。
中堅の男性営業が勤める。女役をやるのだ。
彼はなかなかの芸達者である。
歌もうまい。
素人の域を超えている。
以前NHKの”のど自慢”の予選に出た。
普通に選曲すればよかったのだが、彼が選曲したのは、島倉千代子の”人生いろいろ“である。
しかも、島倉千代子の物まねとして歌うのだ。
ひねったのである。
ひねりすぎたとも言える。
首をかわいらしく傾けながら、歌う。
島倉千代子をできるだけまねている。
歌はうまい。
ところが当時のNHKでは、このような男が物まねをして女性の歌を歌うというのは、認められていなかった。
ふざけていると判断されるのだ。
まじめなNHK、おちゃらけは許されない。
やはり彼は、予選通過はならず、本番でのテレビの放送に登場することはできなかった。
太閤と淀の語りが続く。
話している内容は、社内の出来事をベースに、おもしろおかしく、時としてギャグを入れながら進んで行く。
「殿、今日は新年のご挨拶に大名がお城に来ております。外に控えております。お呼びしましょうか」と淀君が言う。
「おう、そうか。呼べ呼べ。顔をみてみよう」
大名役は、各部門の営業部長である。
すでに今年の年間の売上げ目標が設定されている。
大名の挨拶は、どうしてもビジネスの話になる。
このスキット用に用意した、裃(かみしも)を着て、頭にはまげのかつらまでかぶっている。そのために買い出しに行くわけだ。
結構準備には時間がかかっている。
太閤のきんきらの羽織から、淀君の着物、さらには、オープニングのシーンに会場の正面の大スクリーンに投影するイメージと音楽。
音楽は、NHKの大河ドラマの雰囲気がでるような構成とする。
このような準備が好きな連中がいて、本来の仕事以上に頑張ってやっていく。
登場した大名連中が順番に挨拶する。
「殿には、ご機嫌うるわしう、恐悦至極でござります」
時代劇のまねである。
「今年は、100万石の領地をいただき、、、、」
これは、今年の売上げ目標は100億円ということである。
「過大に評価いただき、非常に嬉しい限りではありますが、天候も悪く、とてもこれだけの年貢をおさめることは厳しく、、、」
早々と目標達成が難しいと、言い訳をしているのだ。
言葉を遮るように、殿が怒鳴り始める。
「なに、おぬしは、年初から弱気な発言よのう。
そんなことでどないする。性根をいれなおして、やりきれ」
と殿から言われると、返す言葉もなく、はぁーと平伏せざるを得ない。
次に登場した大名役の部長は、年末に足を骨折して、まだ松葉杖をもちながら舞台に出てくる。
いきなり、殿がかます。
「おまえは、わしのために、一生懸命仕事をしているのは、よう分かる。
じゃが、ほんまに足の骨を折って、どないすんのや。
仕事で骨を折れ、足の骨は折るな。よいな。
はよ、治すことじゃ」
このあたりのやりとりは、スキットの台本には書いていない部分だ。
お互いにアドリブでの掛け合いである。
そのあたりは、海千山千の部長連中なので、殿の意に沿った対応をしながら、スキットが進んで行く。
最後に登場した大名役の部長は、地方から大阪に出張で来ている。
この日は晴れの舞台であり、一年に一度だけの場面である。
あいさつのための言葉を、年始からずぅーと考えている。
毎年、ひとひねりした話をする。
何を言い出すのか、よく知っているメンバーは、客席から彼の動きと言葉に注目している。
「かなしいかな、ズボンのおなら、右と左に枝分かれ」
いきなり、川柳を放ったのである。
この話は、随分昔のキックオフミーティングのことだが、この川柳の一句だけは、未だに覚えている。
それだけ印象が強烈だった。
まるで場違いな川柳を、唐突に発する。
しかもその内容が、おならである。
おならの持つ強烈さと,意外性。
実際は臭いのが普通だが、話している分には臭うことはない。
おならを織り込んだ川柳を放った部長のメッセージは、殿の懐にも深く突き刺さった。
これがおならの効果か。
そう、このような意外性が必要なときに、“へ”をうまく使う。
これがまさに、“への期待”である。
~~~~~~~~~~~~
どうかな、こんな話だけど。“への期待”の話。
…….. ふーん、よく分からない。
そうか、すべったようだね。

……… どんな筋なの。
筋と言っても、一応入社試験の論文ということを前提にしたからね。
…….. 別にそのことにこだわらなくてもいいのに。
でも、なにもなくていきなり“への期待”というのは書いてみようとは思わないだろう。
……… まぁ、それはそうだけど、、、、で、どんな書き出しなの。初めの掴みが大事だよね。
そんなプレッシャーをかけるなって。緊張して臨んだ試験のなかでの作文ということだからね。
時間も限られているから。
~~~~~~~~~~~~
年の初め、毎年1月には、各地区ごとに社員が一堂に会したキックオフミーティングが開催された。
キックオフミーティングでは、社員だけでなく、お客様も数は多くはないが、招待されて会場に来られている。
会場は1000人規模の席数を有する大きな劇場だ。
前半は、いろいろなゲストによるスピーチが続く。
昨年度に優秀な成績をあげた営業が表彰される。
営業だけではなく、技術担当者も表彰される。
表彰式が終わると、恒例のスキットが始まる。
その年のタイトルは、“太閤記”である。
毎年スキットのタイトルは、前の年のNHK大河ドラマから取ってくる。
主役は、本事業部の副事業部長だ。
毎年スキットの台本を書いている人だ。
全体で60分くらいのスキットである。
アドリブの場面もあるが、大筋、台本とおりに話が進んでいく。
副事業部長が太閤役である。
太閤役は舞台に出ずっぱりだ。
もうひとり出ずっぱりの役がある。
この太閤記では、淀の君である。
中堅の男性営業が勤める。女役をやるのだ。
彼はなかなかの芸達者である。
歌もうまい。
素人の域を超えている。
以前NHKの”のど自慢”の予選に出た。
普通に選曲すればよかったのだが、彼が選曲したのは、島倉千代子の”人生いろいろ“である。
しかも、島倉千代子の物まねとして歌うのだ。
ひねったのである。
ひねりすぎたとも言える。
首をかわいらしく傾けながら、歌う。
島倉千代子をできるだけまねている。
歌はうまい。
ところが当時のNHKでは、このような男が物まねをして女性の歌を歌うというのは、認められていなかった。
ふざけていると判断されるのだ。
まじめなNHK、おちゃらけは許されない。
やはり彼は、予選通過はならず、本番でのテレビの放送に登場することはできなかった。
太閤と淀の語りが続く。
話している内容は、社内の出来事をベースに、おもしろおかしく、時としてギャグを入れながら進んで行く。
「殿、今日は新年のご挨拶に大名がお城に来ております。外に控えております。お呼びしましょうか」と淀君が言う。
「おう、そうか。呼べ呼べ。顔をみてみよう」
大名役は、各部門の営業部長である。
すでに今年の年間の売上げ目標が設定されている。
大名の挨拶は、どうしてもビジネスの話になる。
このスキット用に用意した、裃(かみしも)を着て、頭にはまげのかつらまでかぶっている。そのために買い出しに行くわけだ。
結構準備には時間がかかっている。
太閤のきんきらの羽織から、淀君の着物、さらには、オープニングのシーンに会場の正面の大スクリーンに投影するイメージと音楽。
音楽は、NHKの大河ドラマの雰囲気がでるような構成とする。
このような準備が好きな連中がいて、本来の仕事以上に頑張ってやっていく。
登場した大名連中が順番に挨拶する。
「殿には、ご機嫌うるわしう、恐悦至極でござります」
時代劇のまねである。
「今年は、100万石の領地をいただき、、、、」
これは、今年の売上げ目標は100億円ということである。
「過大に評価いただき、非常に嬉しい限りではありますが、天候も悪く、とてもこれだけの年貢をおさめることは厳しく、、、」
早々と目標達成が難しいと、言い訳をしているのだ。
言葉を遮るように、殿が怒鳴り始める。
「なに、おぬしは、年初から弱気な発言よのう。
そんなことでどないする。性根をいれなおして、やりきれ」
と殿から言われると、返す言葉もなく、はぁーと平伏せざるを得ない。
次に登場した大名役の部長は、年末に足を骨折して、まだ松葉杖をもちながら舞台に出てくる。
いきなり、殿がかます。
「おまえは、わしのために、一生懸命仕事をしているのは、よう分かる。
じゃが、ほんまに足の骨を折って、どないすんのや。
仕事で骨を折れ、足の骨は折るな。よいな。
はよ、治すことじゃ」
このあたりのやりとりは、スキットの台本には書いていない部分だ。
お互いにアドリブでの掛け合いである。
そのあたりは、海千山千の部長連中なので、殿の意に沿った対応をしながら、スキットが進んで行く。
最後に登場した大名役の部長は、地方から大阪に出張で来ている。
この日は晴れの舞台であり、一年に一度だけの場面である。
あいさつのための言葉を、年始からずぅーと考えている。
毎年、ひとひねりした話をする。
何を言い出すのか、よく知っているメンバーは、客席から彼の動きと言葉に注目している。
「かなしいかな、ズボンのおなら、右と左に枝分かれ」
いきなり、川柳を放ったのである。
この話は、随分昔のキックオフミーティングのことだが、この川柳の一句だけは、未だに覚えている。
それだけ印象が強烈だった。
まるで場違いな川柳を、唐突に発する。
しかもその内容が、おならである。
おならの持つ強烈さと,意外性。
実際は臭いのが普通だが、話している分には臭うことはない。
おならを織り込んだ川柳を放った部長のメッセージは、殿の懐にも深く突き刺さった。
これがおならの効果か。
そう、このような意外性が必要なときに、“へ”をうまく使う。
これがまさに、“への期待”である。
~~~~~~~~~~~~
どうかな、こんな話だけど。“への期待”の話。
…….. ふーん、よく分からない。
そうか、すべったようだね。
