球状船首(2)
- 2016/02/05
- 00:47
……………….いまでも忘れないくらい強烈な印象だったの。
そうそう、あの映像はなかなか忘れられない。
その偉い先生は抵抗の少ない船の形状を考え出したのだ。
船の抵抗にはいくつかの種類があってね。その中のひとつを “造波抵抗”というんだ。
……………….ぞうはていこう?
それは波が造る抵抗なので、造波抵抗と呼んでいる。
造波抵抗以外には、粘性抵抗というのがあってね。
……………….ねんせいていこう?むずかしそう。
言葉で言うと難しそうだけど、プールに入ったときに、ゆっくり歩いてみるときを考えてみればいいんだ。
ゆっくり歩くから波は立たないだろう。
でも前に進むときに水が抵抗しているように感じるだろう。
体が大きい人は、水にぶつかっている面積が大きいから、抵抗も大きくなるよね。
これが粘性抵抗というやつだ。
……………….ふーん、それだったら何となく分かるわ。
今度は泳いでみると、波が立つよね。ばしゃばしゃって、これが造波抵抗だ。
速く泳ぐ人は、波があまり立たないと思うよ。下手な人ほど、波ばかりたてているだろう。
……………….そういえばそうね。オリンピックの水泳を見ていると、体が流線型のようになっていて、水の抵抗もすくなそうね。
バサロ泳法というのがあるだろう。あれは水の中に潜ってしまうので、波が立たない。
波が立たないと造波抵抗がゼロになるので、速く進むわけだ。
船の場合も同じで、波を立てずに進むほうが効率がいいんだ。
船を全部沈めると潜水艦になってしまうけど、まさかそれはできないので、できるだけ造波抵抗を少なくするようなことを考えるのだね。
……………….ふぅーん。
そこで出てきたのが、球状船首というものなんだ。
渋面の偉い先生、I先生は、その実験結果を映像で見せてくれたのだ。
球状船首の効果を式で書いてもよく分からない。
実験の様子を映像で見せられると学生にもよく分かるからね。
まず、従来の船首の形は、こんなふうになっている。
船首の造る波も書いてある。

次に、球状船首と言われている部分をつける。
船首の前に大きな突起物をつけるわけだ。

これを日本語では、球状船首、英語ではバルバス・バウと呼ぶ。
この球状船首の形はなんでもいいわけではなく、船首が造る波の山と谷が逆転するような形状にするのだね。
そうすると、従来の船首が造る波と球状船首が造る波が打ち消し合って、波が消えるということになる。
これを水槽のなかで模型を使って実験をして、撮影しているので、学生にもよく分かるのだね。
……………….面白そう。私も見てみたい。
ところがだね。教室の前のスクリーンに初めに従来の船首が写されるだろう。
そして、その後に、球状船首をとりつけた画像がアップで写されるのだ。
それを見た瞬間に、学生は居眠りどころじゃないね。
あちこちで失笑というか、吹き出してしまってね。
授業にならなかったよ。
……………….えっ、どういうこと。
動画を見せられないのが残念だけど、分かるだろう。
いきなりバルバス・バウがにょきっとでてくるのだよ。
それは勃起している男性器そのものじゃないか。
……………….なんだ、また、そっちのほうね。本当にもっと真面目に勉強しなさい!
でも、この強烈な画像のお陰で、きっと授業を受けた学生は全員、球状船首のことは忘れていないと思うね。
……………….そりゃ、そうでしょうけど、その偉い先生は、学生が騒いでいるのを見て、怒られたのじゃない。
怖い先生だったからね。学生も吹き出すところを必死で抑えていたので、先生も怒るところまではいかなかったね。
きっと先生も心の中では、同じことを考えていたんじゃないかな。
先生も男だからね。
……………….先生に怒られずによかったね。
そうだね。この話にはまだ後日談があってね。
……………….へぇ、なに、それ。
(つづく)
左端の船には球状船首が付いている。

そうそう、あの映像はなかなか忘れられない。
その偉い先生は抵抗の少ない船の形状を考え出したのだ。
船の抵抗にはいくつかの種類があってね。その中のひとつを “造波抵抗”というんだ。
……………….ぞうはていこう?
それは波が造る抵抗なので、造波抵抗と呼んでいる。
造波抵抗以外には、粘性抵抗というのがあってね。
……………….ねんせいていこう?むずかしそう。
言葉で言うと難しそうだけど、プールに入ったときに、ゆっくり歩いてみるときを考えてみればいいんだ。
ゆっくり歩くから波は立たないだろう。
でも前に進むときに水が抵抗しているように感じるだろう。
体が大きい人は、水にぶつかっている面積が大きいから、抵抗も大きくなるよね。
これが粘性抵抗というやつだ。
……………….ふーん、それだったら何となく分かるわ。
今度は泳いでみると、波が立つよね。ばしゃばしゃって、これが造波抵抗だ。
速く泳ぐ人は、波があまり立たないと思うよ。下手な人ほど、波ばかりたてているだろう。
……………….そういえばそうね。オリンピックの水泳を見ていると、体が流線型のようになっていて、水の抵抗もすくなそうね。
バサロ泳法というのがあるだろう。あれは水の中に潜ってしまうので、波が立たない。
波が立たないと造波抵抗がゼロになるので、速く進むわけだ。
船の場合も同じで、波を立てずに進むほうが効率がいいんだ。
船を全部沈めると潜水艦になってしまうけど、まさかそれはできないので、できるだけ造波抵抗を少なくするようなことを考えるのだね。
……………….ふぅーん。
そこで出てきたのが、球状船首というものなんだ。
渋面の偉い先生、I先生は、その実験結果を映像で見せてくれたのだ。
球状船首の効果を式で書いてもよく分からない。
実験の様子を映像で見せられると学生にもよく分かるからね。
まず、従来の船首の形は、こんなふうになっている。
船首の造る波も書いてある。

次に、球状船首と言われている部分をつける。
船首の前に大きな突起物をつけるわけだ。

これを日本語では、球状船首、英語ではバルバス・バウと呼ぶ。
この球状船首の形はなんでもいいわけではなく、船首が造る波の山と谷が逆転するような形状にするのだね。
そうすると、従来の船首が造る波と球状船首が造る波が打ち消し合って、波が消えるということになる。
これを水槽のなかで模型を使って実験をして、撮影しているので、学生にもよく分かるのだね。
……………….面白そう。私も見てみたい。
ところがだね。教室の前のスクリーンに初めに従来の船首が写されるだろう。
そして、その後に、球状船首をとりつけた画像がアップで写されるのだ。
それを見た瞬間に、学生は居眠りどころじゃないね。
あちこちで失笑というか、吹き出してしまってね。
授業にならなかったよ。
……………….えっ、どういうこと。
動画を見せられないのが残念だけど、分かるだろう。
いきなりバルバス・バウがにょきっとでてくるのだよ。
それは勃起している男性器そのものじゃないか。
……………….なんだ、また、そっちのほうね。本当にもっと真面目に勉強しなさい!
でも、この強烈な画像のお陰で、きっと授業を受けた学生は全員、球状船首のことは忘れていないと思うね。
……………….そりゃ、そうでしょうけど、その偉い先生は、学生が騒いでいるのを見て、怒られたのじゃない。
怖い先生だったからね。学生も吹き出すところを必死で抑えていたので、先生も怒るところまではいかなかったね。
きっと先生も心の中では、同じことを考えていたんじゃないかな。
先生も男だからね。
……………….先生に怒られずによかったね。
そうだね。この話にはまだ後日談があってね。
……………….へぇ、なに、それ。
(つづく)
左端の船には球状船首が付いている。
