なくしもの
- 2016/03/02
- 00:00
時としてものが見あたらないことがある。
IT会社で仕事をしていたときは、名刺入れが行方不明になったことが2度ある。
一度は四国に出張に行ったときだった。
自分の経路を思い出して、鉄道会社やタクシー会社にも落とし物がないか、電話をして聞きまくった。
結局出てこなかった。
名刺入れ以外では、手帳がしばしば行方不明になった。
名刺入れと大きさはそれほど変わらないが、名刺入れより、ひとまわりサイズが大きい。
そのせいか、長いときは1ヶ月くらい経ってから、思わぬところにあるのが見つかったこともある。
短いときはせいぜい1日~2日で出てくる。
ノートの間とか、本の間に挟まっていたことが多い。
まるで少し家出をしたドラ息子のようだ。
家を離れて自活してみると、大変なので結局は家に戻ってくる。
それに比べ、名刺入れは、他の人の名刺も入っているためか、自分の名刺ももちろん入ってはいるのだが、僕に対する愛情が少ないのだ。
どら息子ではなく、めったに会わない甥っ子くらいか。
ノートもしばしば行方不明になっている。
ただこれは手帳よりも、もっと不在期間は短かった。
ノートには当然自分で手書きをしている。
手帳も書き込んでいるが、書いている分量は、ノートのほうが圧倒的に多い。
名刺入れは、ノートや手帳に比べると、ほとんど書き込むことはない。
以前は、もらった名刺には、日付を書いたこともあったが、そのときは、名刺はすでに名刺入れから机のなかの名刺バインダーに移動している。
書き込む量が少ないので、愛着が伝わらないのだろうか。
幸い、お金を入れている財布や、小銭入れは、なくしたことがない。
財布も小銭入れも自分で書き込んでいるものはないのだが、なくしてはいけない、という気持ちが強いので、いつも離れずにいるのだ。
先日の同期の集まり、N会で、落とし物が出てきたという話を聞いた。
落とし主は、Y君だ。
落としたものは小銭入れである。
落とした場所は、登山部で六甲を縦走しているとき、山の中の可能性が高い。
こんなところで落としたとすると、まぁ出てくることはない。
しかも、小銭入れのなかに万札を入れていたのである。
なんで、山に行くのに、そんな大金を持っていくんだ、と思わず、聞いたのだが、Y君は、山を下りてから食事をすることになっていたからと言う。
それでもそんな高い店で食べるわけなんかないやろ。せいぜい5千円もあれば十分ちゃうん。
とさらに突っ込むと、いやいやとY君は、いれておかないと安心できん、と。
その万札入りの小銭入れ。
きっと落としたときには、9割方あきらめていたに違いない。
ところが、自宅に帰って小銭入れの不在に気がついたY君は、元来のねちっこさが頭をもたげてきた。
決してあきらめない。
まずは、警察に届ける。
警察からは、拾われて警察に届けられた場合には、拾得物のデータベースがあり、それは、インターネットで見ることができると言われた。
Y君は、毎日まめにチェックをする。
そういう執念深さは学生時代から変わらない。
何事もいい加減には済まさないのだ。
何日かして、小銭入れの拾得があることが見つかる。
場所も該当地域だ。
いくら入っていたかは、書いていない。そこには現金とだけ書かれている。
それはそうだ。何万円という記述があれば、本人以外のやつが私のものですと名乗り出るだろう。
小銭入れに現金という組み合わせだけでは、いくら拾得された場所が、歩いた場所であっても、なかなか特定することはできない。
ところが、そのデータベースに書いてある内容物にユニークなところがあった。
それは、薬である。
Y君が言うには、これが決め手だった。
あんたらも、小銭入れには薬をいれておかんとあかん、とおかしなことを言う。
その薬の名前と現金の額を警察に伝え、拾得された小銭入れが、Y君のものであることが認められたのである。
その後は、警察に受け取りに行く。
拾得した人の名前と住所は教えてくれるそうだが、警察が間を取り次ぐということはしない。
自分で訪ねることになる。
Y君は、足を伸ばして、親切な拾得者を訪ねて、きちんとお礼をしたという。
そんなにたくさんのお礼を渡したんかと、みんなが驚くほどの現金を渡している。
太っ腹だ。
まぁ、返ってこないと思っていた、自分の小銭入れが返ってきたのだから、それくらいしてもいいのかもしれない。
ほんまに、小銭入れには、薬。これが大事な教訓や。
Y君はうそぶいている。
でも誰もそれをまねするやつはいないだろう。
それよりも登山に大金持参は禁物というのが教訓だろう。
そうそう、その拾った人は、山の中で拾ったんだろう。
よう、届けたな。もらっておいてもよかったのに。
それがな、グループで登山をしていたそうや。
みんなで見つけて、しかも小さな小銭入れやから、まさか札が入っていると思っていなかったんちゃうか。
一人で拾ったのだったら、どうなったか、分からなかったけどな。
ほんま、おまえは悪運が強いわ。
それは悪運とはいわへんやろ。
まぁ、ええけど、今日は、なくなったお金が戻ってきた、おまえのおごりやな。
こうやって、N会が盛り上がっていく。

IT会社で仕事をしていたときは、名刺入れが行方不明になったことが2度ある。
一度は四国に出張に行ったときだった。
自分の経路を思い出して、鉄道会社やタクシー会社にも落とし物がないか、電話をして聞きまくった。
結局出てこなかった。
名刺入れ以外では、手帳がしばしば行方不明になった。
名刺入れと大きさはそれほど変わらないが、名刺入れより、ひとまわりサイズが大きい。
そのせいか、長いときは1ヶ月くらい経ってから、思わぬところにあるのが見つかったこともある。
短いときはせいぜい1日~2日で出てくる。
ノートの間とか、本の間に挟まっていたことが多い。
まるで少し家出をしたドラ息子のようだ。
家を離れて自活してみると、大変なので結局は家に戻ってくる。
それに比べ、名刺入れは、他の人の名刺も入っているためか、自分の名刺ももちろん入ってはいるのだが、僕に対する愛情が少ないのだ。
どら息子ではなく、めったに会わない甥っ子くらいか。
ノートもしばしば行方不明になっている。
ただこれは手帳よりも、もっと不在期間は短かった。
ノートには当然自分で手書きをしている。
手帳も書き込んでいるが、書いている分量は、ノートのほうが圧倒的に多い。
名刺入れは、ノートや手帳に比べると、ほとんど書き込むことはない。
以前は、もらった名刺には、日付を書いたこともあったが、そのときは、名刺はすでに名刺入れから机のなかの名刺バインダーに移動している。
書き込む量が少ないので、愛着が伝わらないのだろうか。
幸い、お金を入れている財布や、小銭入れは、なくしたことがない。
財布も小銭入れも自分で書き込んでいるものはないのだが、なくしてはいけない、という気持ちが強いので、いつも離れずにいるのだ。
先日の同期の集まり、N会で、落とし物が出てきたという話を聞いた。
落とし主は、Y君だ。
落としたものは小銭入れである。
落とした場所は、登山部で六甲を縦走しているとき、山の中の可能性が高い。
こんなところで落としたとすると、まぁ出てくることはない。
しかも、小銭入れのなかに万札を入れていたのである。
なんで、山に行くのに、そんな大金を持っていくんだ、と思わず、聞いたのだが、Y君は、山を下りてから食事をすることになっていたからと言う。
それでもそんな高い店で食べるわけなんかないやろ。せいぜい5千円もあれば十分ちゃうん。
とさらに突っ込むと、いやいやとY君は、いれておかないと安心できん、と。
その万札入りの小銭入れ。
きっと落としたときには、9割方あきらめていたに違いない。
ところが、自宅に帰って小銭入れの不在に気がついたY君は、元来のねちっこさが頭をもたげてきた。
決してあきらめない。
まずは、警察に届ける。
警察からは、拾われて警察に届けられた場合には、拾得物のデータベースがあり、それは、インターネットで見ることができると言われた。
Y君は、毎日まめにチェックをする。
そういう執念深さは学生時代から変わらない。
何事もいい加減には済まさないのだ。
何日かして、小銭入れの拾得があることが見つかる。
場所も該当地域だ。
いくら入っていたかは、書いていない。そこには現金とだけ書かれている。
それはそうだ。何万円という記述があれば、本人以外のやつが私のものですと名乗り出るだろう。
小銭入れに現金という組み合わせだけでは、いくら拾得された場所が、歩いた場所であっても、なかなか特定することはできない。
ところが、そのデータベースに書いてある内容物にユニークなところがあった。
それは、薬である。
Y君が言うには、これが決め手だった。
あんたらも、小銭入れには薬をいれておかんとあかん、とおかしなことを言う。
その薬の名前と現金の額を警察に伝え、拾得された小銭入れが、Y君のものであることが認められたのである。
その後は、警察に受け取りに行く。
拾得した人の名前と住所は教えてくれるそうだが、警察が間を取り次ぐということはしない。
自分で訪ねることになる。
Y君は、足を伸ばして、親切な拾得者を訪ねて、きちんとお礼をしたという。
そんなにたくさんのお礼を渡したんかと、みんなが驚くほどの現金を渡している。
太っ腹だ。
まぁ、返ってこないと思っていた、自分の小銭入れが返ってきたのだから、それくらいしてもいいのかもしれない。
ほんまに、小銭入れには、薬。これが大事な教訓や。
Y君はうそぶいている。
でも誰もそれをまねするやつはいないだろう。
それよりも登山に大金持参は禁物というのが教訓だろう。
そうそう、その拾った人は、山の中で拾ったんだろう。
よう、届けたな。もらっておいてもよかったのに。
それがな、グループで登山をしていたそうや。
みんなで見つけて、しかも小さな小銭入れやから、まさか札が入っていると思っていなかったんちゃうか。
一人で拾ったのだったら、どうなったか、分からなかったけどな。
ほんま、おまえは悪運が強いわ。
それは悪運とはいわへんやろ。
まぁ、ええけど、今日は、なくなったお金が戻ってきた、おまえのおごりやな。
こうやって、N会が盛り上がっていく。
