猟犬の話
- 2015/02/07
- 09:48
ゴジラプロジェクトのメンバーの一人に大学の先生がおられた。
他のメンバーは、職種は違うが、全員が民間企業の社員である。ゴジラプロジェクトをまとめていたのがT先生である。
T先生は民間企業の勤務経験を持っておられて、研究テーマがヒューマンインターフェイスであるからでもないだろうが、非常に気さくな先生だった。先生ぶったところがなく、いつも素で話をされる。
これは先生から聞いた話なのだが、犬が賢いということを僕の頭にすりこんだエピソードである。
T先生は、狩猟をすることになった。それにはある事情があるのだが、狩猟をするには、まず猟銃を使える免許を取らないといけない。日本は、銃の所持が世界で一番難しい国らしい。
国民の安全という観点からは、これからも厳しくやって欲しい。アメリカのように子供が間違えて銃で母親を殺してしまうような悲劇を起こしてはいけない。
そのような厳しい状況の中で、T先生は、銃を所持できる免許を取り、狩猟免許も取得したのである。結構な時間がかかったのは当然だろうが、合格率の低い試験も、当然のことながら大学教授なので、無事予定通り、免許を得たわけである。
さて、T先生は、狩猟の大先輩といよいよ狩猟に行くことになった。
大先輩が,すべてのものを準備し、早朝から出発した。
もちろん猟犬も同行している。大先輩に毎回帯同している、こちらもベテランの猟犬である。
狩猟の対象は鴨だった。
まず大先輩が見本を示す。
大先輩の銃が,火を噴き、鴨が撃ち落とされる。
猟犬たちが勢いよく走り出し、獲物をもって帰ってくる。
次は、T先生の番である。
かなり射撃の練習もしているので、T先生はやや不安はあるものの、銃を構える。
やってやるぞ、という気構えである。
狙いを定める。
猟犬たちもT先生のすぐ前の位置で、戦闘態勢に入っている。
発砲されたら直ちに撃ち落とされた獲物めがけて、飛び出す体制になっている。
ちょうど号砲を待つ100メートル競走のスタートラインに立つ選手と同じだ。
猟犬までが息を止めているような静寂の時間。
後は、発砲音を待つだけだ。
ここぞというときに、T先生が引き金を引く。
銃の発砲音が山中に響く。
だが、T先生の気合い虚しく、鴨は飛び去ってゆく。
はずれたのだ。
そのときだ。
猟犬は飛びださない。
彼らにも、弾があたったか、外れたかは、瞬時に分かるのだ。
さすがに長い間の狩猟経験だ。
それが分かったときに、2匹の猟犬は、スタートラインに立った姿勢を崩さずに、首だけをT先生の方に向ける。
おまえ、はずしたな、という顔をして、T先生を小馬鹿にしたような表情をしたそうだ。
犬がそんな表情をしたというのは、それは考えすぎでしょう。
犬の表情が分かりますか、とその話を聞いたときに、僕は、T先生に言った。
いや、確かにそのときの猟犬の顔は、未熟な新人猟師を、上から目線で見下ろしていましたよ、とT先生。
犬は賢いのである。

他のメンバーは、職種は違うが、全員が民間企業の社員である。ゴジラプロジェクトをまとめていたのがT先生である。
T先生は民間企業の勤務経験を持っておられて、研究テーマがヒューマンインターフェイスであるからでもないだろうが、非常に気さくな先生だった。先生ぶったところがなく、いつも素で話をされる。
これは先生から聞いた話なのだが、犬が賢いということを僕の頭にすりこんだエピソードである。
T先生は、狩猟をすることになった。それにはある事情があるのだが、狩猟をするには、まず猟銃を使える免許を取らないといけない。日本は、銃の所持が世界で一番難しい国らしい。
国民の安全という観点からは、これからも厳しくやって欲しい。アメリカのように子供が間違えて銃で母親を殺してしまうような悲劇を起こしてはいけない。
そのような厳しい状況の中で、T先生は、銃を所持できる免許を取り、狩猟免許も取得したのである。結構な時間がかかったのは当然だろうが、合格率の低い試験も、当然のことながら大学教授なので、無事予定通り、免許を得たわけである。
さて、T先生は、狩猟の大先輩といよいよ狩猟に行くことになった。
大先輩が,すべてのものを準備し、早朝から出発した。
もちろん猟犬も同行している。大先輩に毎回帯同している、こちらもベテランの猟犬である。
狩猟の対象は鴨だった。
まず大先輩が見本を示す。
大先輩の銃が,火を噴き、鴨が撃ち落とされる。
猟犬たちが勢いよく走り出し、獲物をもって帰ってくる。
次は、T先生の番である。
かなり射撃の練習もしているので、T先生はやや不安はあるものの、銃を構える。
やってやるぞ、という気構えである。
狙いを定める。
猟犬たちもT先生のすぐ前の位置で、戦闘態勢に入っている。
発砲されたら直ちに撃ち落とされた獲物めがけて、飛び出す体制になっている。
ちょうど号砲を待つ100メートル競走のスタートラインに立つ選手と同じだ。
猟犬までが息を止めているような静寂の時間。
後は、発砲音を待つだけだ。
ここぞというときに、T先生が引き金を引く。
銃の発砲音が山中に響く。
だが、T先生の気合い虚しく、鴨は飛び去ってゆく。
はずれたのだ。
そのときだ。
猟犬は飛びださない。
彼らにも、弾があたったか、外れたかは、瞬時に分かるのだ。
さすがに長い間の狩猟経験だ。
それが分かったときに、2匹の猟犬は、スタートラインに立った姿勢を崩さずに、首だけをT先生の方に向ける。
おまえ、はずしたな、という顔をして、T先生を小馬鹿にしたような表情をしたそうだ。
犬がそんな表情をしたというのは、それは考えすぎでしょう。
犬の表情が分かりますか、とその話を聞いたときに、僕は、T先生に言った。
いや、確かにそのときの猟犬の顔は、未熟な新人猟師を、上から目線で見下ろしていましたよ、とT先生。
犬は賢いのである。
