第一のコオース
- 2016/03/12
- 00:00
突然、オフィスで声をあげる。
「第一のコオース、○○君、XX学院高校」
自分で言いながら、椅子から立ち上がり、少し恥ずかしそうに手を挙げる。
次は、第二のコオース、、、、と順番に、全員の名前が呼ばれていく。
隣の女性が、驚いた風に、僕を見ている。半ばあきれるように言うのだ。
「なに、それ」
「ああ、これはね、高校の時の水泳の大会での決勝のときのことを思い出してね。初めて決勝に残ったときね。それほど優秀な選手じゃなかったから、予選落ちが多かったから」
「ふーん。それでそのときのことを思い出して、再現ビデオっていうわけなの。変なの」
こんなことをやっていると、自分の席で、手を斜めにあげて、「はい」と言っていた、先輩のTさんのようだ。
Tさんの場合は、小学校の教室の風景だ。
僕の場合は、高校のときの水泳大会である。
「決勝のコースは、予選のときの順位で決まるからね。予選一番者が中央のコースになるんだ。9コースだと、真ん中が5コース、それから6、4,7、3、8,2、9、1と、たいてい1コースが一番遅い奴ということになっている」
「それだと、第一のコースというのは、ぎりぎりで決勝に残ったことになるのね」
「でも、決勝に残るのと、予選落ちとは、天と地ほどに差があるからね。決勝に残ればいいんだよ」
「そうなのね。じゃ、決勝に残っておめでとう」
「ありがとう。同じ予選落ちでも、全日本インカレのときはいい記念だったけど、ひどいものだったね」
「全日本インカレって、なに。よく分からない」
「全日本インカレっていうのは、全日本学生選手権のこと。これは出るだけですごいことなんだ。それこそ、オリンピックにでるような選手も泳いでいるからね」
「へぇ、そうなんだ。それで、その大変な大会に出たの」
「出たんだよ。先輩にすごい選手が何人かいてね。2つ上の学年だったけど、その先輩たちのお陰で出場したんだ」
「へぇ。でも水泳って個人戦でしょ。先輩にいくら速い人がいても、それで出られるの」
「水泳は基本は個人プレイだけど、団体戦というのもあるんだ。地方予選があってね。その地方予選、関東インカレっていうのだけど、そこで団体戦で上位に入ったんだね。それでチームとして全日本インカレに出場できたわけなんだ」
「ふーん、それはよくわからないけど、すごいことのようね」
「それはそうだよ、高校野球の甲子園とまではいかないけど、それに近いところがあるからね」
遠い昔の学生時代。
決勝で泳いだ記憶。それは高校生のときだ。
選手の名前が独特の言い回しで呼ばれていた。
今では、あのような呼び方を聞くことはできない。
第一のコオースと、やけにコの後の母音が大きく聞こえるのだ。
夏の暑い日差しが照りつける。
プールは屋外だ。
コースのスタート台に立ち、身をかがめる。
号砲とともに、スタート台を蹴って、水の中に飛び込んでいく。
一斉に飛び散る、水しぶき。
水面が太陽の光で照り返っている。
遠い夏の日の思い出だ。

「第一のコオース、○○君、XX学院高校」
自分で言いながら、椅子から立ち上がり、少し恥ずかしそうに手を挙げる。
次は、第二のコオース、、、、と順番に、全員の名前が呼ばれていく。
隣の女性が、驚いた風に、僕を見ている。半ばあきれるように言うのだ。
「なに、それ」
「ああ、これはね、高校の時の水泳の大会での決勝のときのことを思い出してね。初めて決勝に残ったときね。それほど優秀な選手じゃなかったから、予選落ちが多かったから」
「ふーん。それでそのときのことを思い出して、再現ビデオっていうわけなの。変なの」
こんなことをやっていると、自分の席で、手を斜めにあげて、「はい」と言っていた、先輩のTさんのようだ。
Tさんの場合は、小学校の教室の風景だ。
僕の場合は、高校のときの水泳大会である。
「決勝のコースは、予選のときの順位で決まるからね。予選一番者が中央のコースになるんだ。9コースだと、真ん中が5コース、それから6、4,7、3、8,2、9、1と、たいてい1コースが一番遅い奴ということになっている」
「それだと、第一のコースというのは、ぎりぎりで決勝に残ったことになるのね」
「でも、決勝に残るのと、予選落ちとは、天と地ほどに差があるからね。決勝に残ればいいんだよ」
「そうなのね。じゃ、決勝に残っておめでとう」
「ありがとう。同じ予選落ちでも、全日本インカレのときはいい記念だったけど、ひどいものだったね」
「全日本インカレって、なに。よく分からない」
「全日本インカレっていうのは、全日本学生選手権のこと。これは出るだけですごいことなんだ。それこそ、オリンピックにでるような選手も泳いでいるからね」
「へぇ、そうなんだ。それで、その大変な大会に出たの」
「出たんだよ。先輩にすごい選手が何人かいてね。2つ上の学年だったけど、その先輩たちのお陰で出場したんだ」
「へぇ。でも水泳って個人戦でしょ。先輩にいくら速い人がいても、それで出られるの」
「水泳は基本は個人プレイだけど、団体戦というのもあるんだ。地方予選があってね。その地方予選、関東インカレっていうのだけど、そこで団体戦で上位に入ったんだね。それでチームとして全日本インカレに出場できたわけなんだ」
「ふーん、それはよくわからないけど、すごいことのようね」
「それはそうだよ、高校野球の甲子園とまではいかないけど、それに近いところがあるからね」
遠い昔の学生時代。
決勝で泳いだ記憶。それは高校生のときだ。
選手の名前が独特の言い回しで呼ばれていた。
今では、あのような呼び方を聞くことはできない。
第一のコオースと、やけにコの後の母音が大きく聞こえるのだ。
夏の暑い日差しが照りつける。
プールは屋外だ。
コースのスタート台に立ち、身をかがめる。
号砲とともに、スタート台を蹴って、水の中に飛び込んでいく。
一斉に飛び散る、水しぶき。
水面が太陽の光で照り返っている。
遠い夏の日の思い出だ。
