感動するということ(2)
- 2016/08/26
- 00:00
あるお客様で大規模なシステム導入の検討が始まった。
提案する企業が複数社出てきて、競合状態となる。
このときは、アプリケーションソフトウェアの選択が最も重要だった。
ものづくりの上流から下流の生産工程までの業務に対応できるシステムをお客様は希望されていた。
お客様の業務に適応したアプリケーションソフトウェアを各社が提案することになる。
このような導入検討は、検討開始から決定、導入作業開始まで、1年以上かかることも珍しくない。
一旦導入が決まると、重要な基幹システムとなるので、最低5年は継続して使用することになる。予算的にも当時としては、かなり大きな10億円規模だった。
当初は、複数の提案があったが、提案書での検討結果として2つのアプリケーションソフトウェアに絞られた。
ひとつは、上流工程に強みを持つソフトウェアである。
これを提案しているIT会社は、お客様とのシステム部門との関係が太く、システム部門が主導で決める案件については、ほぼ間違いなく獲得していた。
もうひとつは、下流工程での生産部門での実績があり、いわゆる現場の業務に精通していたシステムである。こういう現場の業務に強いソフトウェアを持っているIT会社というのは、往々にして、システム部門との関係は弱い。
その反対に生産部門であるユーザーには受けがいいということが多い。
2つのソフトウェアについて、システム部門は上流から下流へ情報を流していくということから、上流工程に強いソフトウェアを推している。
一方ユーザー部門である生産工程の部門では、当然下流工程に強いソフトウェアを推すとう構図になる。
力関係でいうとシステム部門が推すソフトウェアに決まることが多いのであるが、さすがにシステム部門としても強引に決めてしまって、後でユーザー部門から強く反感を持たれても困る。
そこで、ベンチマークテストにより決めようということになった。
上流部門に強いソフトウェアを提案しているIT会社は、システム導入の担当であるシステム部門との関係が強いので、利用者部門の要望や意見というすべての情報を取ることができた。
ベンチマークテストに勝つための方策もシステム部門と共同で立てることができるので、戦いでは優位に立つことできる。
ユーザー部門の要求にきめ細かく対応し、現時点では対応できない点についても、ソフトウェアの開発元に要望をあげ、将来的に対応するという、満点に近い提案を作り上げることができた。
一方下流工程に強いソフトウェアを提案しているIT会社はソフトウェアが専用ソフトウェアとも言える、生産部門に特化した製品である。標準機能で対応し、できる範囲のところだけに対応する、機能的に弱いところである上流部門に必要な機能については、別のソフトウェアをあわせて提案するという形になった。
システム部門の判断は、いくら生産工程に強いといっても総合的に見れば下流工程に強いソフトウェア側の提案では勝てないだろうというものだった。
ベンチマークテストは数カ月にわたり、きめ細かいテストが実施された。
報告書が生産部門からあがってくる。
システム部門に来た報告書は、上流工程に強いソフトウェアを提案しているIT会社にも、システム部門の担当者を通じて開示される。
報告書には、処理時間や使用したデータについての、いわゆる技術的な数値が並んでいる。
機能面でも、項目毎にできる、できない、あるいはその中間という評価が〇、X、△で記載されている。
この数値だけでは優劣をつけがたい。
上流工程を提案しているIT会社の担当者は、途中まで報告書を読みながら、これはいけるという思いを強くしていった。
報告書の最後に、ベンチマークテストを実施した生産部門の担当者の所感が書いてある。
そこには、下流工程に強いソフトウェアのベンチマークテストについて、記された言葉がある。
“感動した”と書いてあるではないか。
およそ技術的なベンチマークテストの報告書では、お目にかからない言葉である。
よほど担当者の要望に合致していた、いや期待している以上のことができたのに違いない。
IT会社の担当者は、そこまで読み進み、手が停まってしまった。
思わず、同じテーブルについているシステム部門の責任者の顔を見た。
年配の責任者が言った言葉が結論だった。
「感動したと言われたら、これに勝つのは無理だね。これは最上級の評価だ。いろいろやっていただいたが今回は、残念だが、御社の提案は採用できません」

提案する企業が複数社出てきて、競合状態となる。
このときは、アプリケーションソフトウェアの選択が最も重要だった。
ものづくりの上流から下流の生産工程までの業務に対応できるシステムをお客様は希望されていた。
お客様の業務に適応したアプリケーションソフトウェアを各社が提案することになる。
このような導入検討は、検討開始から決定、導入作業開始まで、1年以上かかることも珍しくない。
一旦導入が決まると、重要な基幹システムとなるので、最低5年は継続して使用することになる。予算的にも当時としては、かなり大きな10億円規模だった。
当初は、複数の提案があったが、提案書での検討結果として2つのアプリケーションソフトウェアに絞られた。
ひとつは、上流工程に強みを持つソフトウェアである。
これを提案しているIT会社は、お客様とのシステム部門との関係が太く、システム部門が主導で決める案件については、ほぼ間違いなく獲得していた。
もうひとつは、下流工程での生産部門での実績があり、いわゆる現場の業務に精通していたシステムである。こういう現場の業務に強いソフトウェアを持っているIT会社というのは、往々にして、システム部門との関係は弱い。
その反対に生産部門であるユーザーには受けがいいということが多い。
2つのソフトウェアについて、システム部門は上流から下流へ情報を流していくということから、上流工程に強いソフトウェアを推している。
一方ユーザー部門である生産工程の部門では、当然下流工程に強いソフトウェアを推すとう構図になる。
力関係でいうとシステム部門が推すソフトウェアに決まることが多いのであるが、さすがにシステム部門としても強引に決めてしまって、後でユーザー部門から強く反感を持たれても困る。
そこで、ベンチマークテストにより決めようということになった。
上流部門に強いソフトウェアを提案しているIT会社は、システム導入の担当であるシステム部門との関係が強いので、利用者部門の要望や意見というすべての情報を取ることができた。
ベンチマークテストに勝つための方策もシステム部門と共同で立てることができるので、戦いでは優位に立つことできる。
ユーザー部門の要求にきめ細かく対応し、現時点では対応できない点についても、ソフトウェアの開発元に要望をあげ、将来的に対応するという、満点に近い提案を作り上げることができた。
一方下流工程に強いソフトウェアを提案しているIT会社はソフトウェアが専用ソフトウェアとも言える、生産部門に特化した製品である。標準機能で対応し、できる範囲のところだけに対応する、機能的に弱いところである上流部門に必要な機能については、別のソフトウェアをあわせて提案するという形になった。
システム部門の判断は、いくら生産工程に強いといっても総合的に見れば下流工程に強いソフトウェア側の提案では勝てないだろうというものだった。
ベンチマークテストは数カ月にわたり、きめ細かいテストが実施された。
報告書が生産部門からあがってくる。
システム部門に来た報告書は、上流工程に強いソフトウェアを提案しているIT会社にも、システム部門の担当者を通じて開示される。
報告書には、処理時間や使用したデータについての、いわゆる技術的な数値が並んでいる。
機能面でも、項目毎にできる、できない、あるいはその中間という評価が〇、X、△で記載されている。
この数値だけでは優劣をつけがたい。
上流工程を提案しているIT会社の担当者は、途中まで報告書を読みながら、これはいけるという思いを強くしていった。
報告書の最後に、ベンチマークテストを実施した生産部門の担当者の所感が書いてある。
そこには、下流工程に強いソフトウェアのベンチマークテストについて、記された言葉がある。
“感動した”と書いてあるではないか。
およそ技術的なベンチマークテストの報告書では、お目にかからない言葉である。
よほど担当者の要望に合致していた、いや期待している以上のことができたのに違いない。
IT会社の担当者は、そこまで読み進み、手が停まってしまった。
思わず、同じテーブルについているシステム部門の責任者の顔を見た。
年配の責任者が言った言葉が結論だった。
「感動したと言われたら、これに勝つのは無理だね。これは最上級の評価だ。いろいろやっていただいたが今回は、残念だが、御社の提案は採用できません」
