知らぬ間の家出
- 2017/02/03
- 00:00
家に葉書が来ている。発信人は阪急電車のお忘れ物センターである。
心当たりはないのだが、裏を見ると、免許証の拾得と書いてある。
どうやら数日前に落としたものとして届けられたらしい。
免許証を落としたという意識が全くない。
まさに寝耳に水である。
その状態で、車も運転していた。
次の日の朝、阪急電車の梅田駅のお忘れ物センターへ行く。
ドアをあけると、狭い部屋であるが、担当の年輩の方がカウンターの向こう側におられる。
他に誰も問い合わせに来ている人はいないので、すぐに対応してもらえる。
しばらく待っていると、見覚えのあるオレンジ色のカード入れをもって、担当の方が戻ってくる。
ああ、それです、と言うと、この受取に記入してくださいと言われる。
名前や連絡先を書きこむ。
自分には記憶がないので、どこで見つかったのですか、と聞いてみる。
京都線のなかで、乗客が拾って、それを駅に届けたということである。
届けられた駅は、摂津市駅である。
その日、確かに京都線に乗っている。朝の通勤時間である。
京都線に乗ると言っても、わずかひと駅、十三と南方のわずか2分あまりである。
十三で電車に乗ると、ひと駅だが、重い鞄を網棚に上げることが多い。
その日に網棚に上げたかどうか、記憶にないのだが、電車のなかで文庫本を読んでいた日なので、網棚に鞄を上げた可能性は高い。
その鞄の上げ下げのときに、免許証が落ちたのかもしれない。
ただ、免許証を入れているのは、鞄の横のチャックのなかで、簡単に落ちるところではない。
取り出すことも簡単ではないような場所なので、落としたこと自体が、なかなか合点がいかないのである。
まるで狐に包まれたような話であるが、免許証が手元からいなくなったのは、初めての経験である。
届けていただいた方は親切な方である。
お名前も言わずに届けられたので、お礼のしようもない。
ここでありがとうございます、という気持ちを言うくらいである。
以前、反対のことがあった。
名古屋駅のJRの新幹線の切符を買う自動販売機で、クレジットカードを前の人が忘れていった。
僕がそれを見たときは、すでにそのカードの持ち主は、その場にはいなかった。
切符を購入してから、僕は駅員にそのカードを届けた。
もちろん名前を言わなかった。ただ、届けただけである。
今回は、そのときのお返しだったのかもしれない。
ものがなくなるということは、勝手になくなるのではない。
理由がある。
こういう場合、いつも思うのは、行方不明になったものが、家出をしたようなものだと思っている。
大抵は、なくなったことに気づき、必死にあちこちを探した末に、数日して見つかると言うことが多い。
ところが、今回はいなくなったことにさえも気付かなかったのである。
子供が家出をしたのに、親がそれにも気づかないようなものだ。これでは家出をした子供の立場がない。
このような失敗をした場合は、対策すなわちアクションプランを考えないといけない。
ひとつは、鞄のチャックを必ず、全部締めること。
結構、半開きでも平気な場合が多い。なにしろ僕の鞄にはチャックが7つもある。
2番目は、免許証のケースである。
色がオレンジ色だ。オレンジと言えば、ジャイアンツ色である。
きっと免許証もいつも居心地が悪かったに違いない。
無言の抗議をしていたにも関わらず、親に伝わらない。その結果の家出と考えるのが妥当だろう。
アクションプランは免許証を変えることである。
昨年免許更新のときにもらったケースがある。さすが色は黄色ではないが、青である。
これならば、免許証の気持ちもすこしは和んで、もう家出をすることはないだろう。
でももっと大きな問題は、きっと鞄だろう。
今の鞄はかなり長い間使っている。去年買い変えようとおもって、定番の同じメーカーの品をわざわざ芦屋まで買いに行ったのだが、全く同じものがなく、似たようなものを買った。
家に持って帰って、今の鞄と比較すると、全く容量が足りない。
結局、その新品の鞄はそのまま部屋のなかで見捨てられている状態である。
もう一度大きな鞄を真剣に探しに行こう。
これが三つ目のアクションプランである。
引退するオレンジ色の免許証入れ

新しく登場する新人ケース入れ

心当たりはないのだが、裏を見ると、免許証の拾得と書いてある。
どうやら数日前に落としたものとして届けられたらしい。
免許証を落としたという意識が全くない。
まさに寝耳に水である。
その状態で、車も運転していた。
次の日の朝、阪急電車の梅田駅のお忘れ物センターへ行く。
ドアをあけると、狭い部屋であるが、担当の年輩の方がカウンターの向こう側におられる。
他に誰も問い合わせに来ている人はいないので、すぐに対応してもらえる。
しばらく待っていると、見覚えのあるオレンジ色のカード入れをもって、担当の方が戻ってくる。
ああ、それです、と言うと、この受取に記入してくださいと言われる。
名前や連絡先を書きこむ。
自分には記憶がないので、どこで見つかったのですか、と聞いてみる。
京都線のなかで、乗客が拾って、それを駅に届けたということである。
届けられた駅は、摂津市駅である。
その日、確かに京都線に乗っている。朝の通勤時間である。
京都線に乗ると言っても、わずかひと駅、十三と南方のわずか2分あまりである。
十三で電車に乗ると、ひと駅だが、重い鞄を網棚に上げることが多い。
その日に網棚に上げたかどうか、記憶にないのだが、電車のなかで文庫本を読んでいた日なので、網棚に鞄を上げた可能性は高い。
その鞄の上げ下げのときに、免許証が落ちたのかもしれない。
ただ、免許証を入れているのは、鞄の横のチャックのなかで、簡単に落ちるところではない。
取り出すことも簡単ではないような場所なので、落としたこと自体が、なかなか合点がいかないのである。
まるで狐に包まれたような話であるが、免許証が手元からいなくなったのは、初めての経験である。
届けていただいた方は親切な方である。
お名前も言わずに届けられたので、お礼のしようもない。
ここでありがとうございます、という気持ちを言うくらいである。
以前、反対のことがあった。
名古屋駅のJRの新幹線の切符を買う自動販売機で、クレジットカードを前の人が忘れていった。
僕がそれを見たときは、すでにそのカードの持ち主は、その場にはいなかった。
切符を購入してから、僕は駅員にそのカードを届けた。
もちろん名前を言わなかった。ただ、届けただけである。
今回は、そのときのお返しだったのかもしれない。
ものがなくなるということは、勝手になくなるのではない。
理由がある。
こういう場合、いつも思うのは、行方不明になったものが、家出をしたようなものだと思っている。
大抵は、なくなったことに気づき、必死にあちこちを探した末に、数日して見つかると言うことが多い。
ところが、今回はいなくなったことにさえも気付かなかったのである。
子供が家出をしたのに、親がそれにも気づかないようなものだ。これでは家出をした子供の立場がない。
このような失敗をした場合は、対策すなわちアクションプランを考えないといけない。
ひとつは、鞄のチャックを必ず、全部締めること。
結構、半開きでも平気な場合が多い。なにしろ僕の鞄にはチャックが7つもある。
2番目は、免許証のケースである。
色がオレンジ色だ。オレンジと言えば、ジャイアンツ色である。
きっと免許証もいつも居心地が悪かったに違いない。
無言の抗議をしていたにも関わらず、親に伝わらない。その結果の家出と考えるのが妥当だろう。
アクションプランは免許証を変えることである。
昨年免許更新のときにもらったケースがある。さすが色は黄色ではないが、青である。
これならば、免許証の気持ちもすこしは和んで、もう家出をすることはないだろう。
でももっと大きな問題は、きっと鞄だろう。
今の鞄はかなり長い間使っている。去年買い変えようとおもって、定番の同じメーカーの品をわざわざ芦屋まで買いに行ったのだが、全く同じものがなく、似たようなものを買った。
家に持って帰って、今の鞄と比較すると、全く容量が足りない。
結局、その新品の鞄はそのまま部屋のなかで見捨てられている状態である。
もう一度大きな鞄を真剣に探しに行こう。
これが三つ目のアクションプランである。
引退するオレンジ色の免許証入れ

新しく登場する新人ケース入れ
