厳しい時代(2)
- 2015/03/19
- 00:00
お客さまを訪問していたときだ。
はじめての訪問だった。
工場の中の研究所とも言える建屋に入った。
たまたまそのとき、僕は、いつも持っている鞄とは別に荷物をいれた手提げ袋を持っていた。
両手に荷物を持っていたのだ。
その建屋の受付で待っていると、ご担当のかたが来られた。
会議室は3階にある。
そこまでエスコートしていただく。
階段のところまで一緒に歩いて来て、ご担当のかたは、僕の方を見た。
階段を上ろうとしている足を止めて、横にあるエレベータのボタンを押された。
「大丈夫ですよ。このまま階段でいけますよ」
と僕は、ご担当のかたの心配りに感謝しながら、言った。
「いえ、階段を上り下りするときは、必ず手すりを右手で持ってという決まりなのです」
確かに、両手がふさがっているので、手すりを持って階段を上がることはできない。
安全の決まりを厳守されているのだ。
やはり、日本の製造業のなかでも代表的な会社。
安全に対する取り組み方が違うものだと、感心した。
これと正反対のことがあった。
それを思い出してしまった。
あの厳しい造船不況を切り抜けた企業の話しである。
その後、その企業は、IT部門が独立して、IT会社として走り始めていた。
その会社とは、仕事をする機会が多かった。
あるとき、製品紹介のデモのために、検討をされているお客さまへ一緒に行くことがあった。
当時は、現在のような優秀なPCがない時代である。
お客さまでのデモには、大がかりな準備が必要だった。
PCよりも一回り大きなワークステーションと呼んでいる計算機を持って行く。
表示するためのディスプレイは、液晶ではなく、ブラウン管の時代だ。
デモで使用するために大きなサイズ、25インチ以上あるブラウン管だった。
ブラウン管でこのサイズとなると、なかなか一人で持つのは大変である。
若くて頑健な男性でないと持てない。
デモをするお客さまの敷地のなかに車で乗り入れる。
駐車場から会場までは台車を使う。
それでも台車へ乗せたり、降ろしたりのときは、すべて人力となる。
そのIT会社からは、中堅と若手の技術者二人が来ていた。
若手技術者が重たいブラウン管を両手で車から台車へ降ろそうとしている。
腰を入れて抱えているが、ふらつき気味だ。
それを見た中堅が言った。
「気をつけろよ。おまえの手が擦りむけても、自然と治るけど、ブラウン管をぶつけたら破損して、なおらんぞ」
確かに、まだまだブラウン管の価格が高い時代である。
手を擦りむいても、消毒液をつけておけば、1週間もすれば元通りに戻るだろう。
ブラウン管は1週間しても、元に戻ることはない。
中堅の技術者は、半ばジョークかもしれないが、半ば本音である。
階段を上がらずにエレベーターボタンを押していただいた、ご担当者に改めて感謝した。
エレベータで3階まで上って行く中で、あの重たいブラウン管のことが、鮮明によみがえってきた。

はじめての訪問だった。
工場の中の研究所とも言える建屋に入った。
たまたまそのとき、僕は、いつも持っている鞄とは別に荷物をいれた手提げ袋を持っていた。
両手に荷物を持っていたのだ。
その建屋の受付で待っていると、ご担当のかたが来られた。
会議室は3階にある。
そこまでエスコートしていただく。
階段のところまで一緒に歩いて来て、ご担当のかたは、僕の方を見た。
階段を上ろうとしている足を止めて、横にあるエレベータのボタンを押された。
「大丈夫ですよ。このまま階段でいけますよ」
と僕は、ご担当のかたの心配りに感謝しながら、言った。
「いえ、階段を上り下りするときは、必ず手すりを右手で持ってという決まりなのです」
確かに、両手がふさがっているので、手すりを持って階段を上がることはできない。
安全の決まりを厳守されているのだ。
やはり、日本の製造業のなかでも代表的な会社。
安全に対する取り組み方が違うものだと、感心した。
これと正反対のことがあった。
それを思い出してしまった。
あの厳しい造船不況を切り抜けた企業の話しである。
その後、その企業は、IT部門が独立して、IT会社として走り始めていた。
その会社とは、仕事をする機会が多かった。
あるとき、製品紹介のデモのために、検討をされているお客さまへ一緒に行くことがあった。
当時は、現在のような優秀なPCがない時代である。
お客さまでのデモには、大がかりな準備が必要だった。
PCよりも一回り大きなワークステーションと呼んでいる計算機を持って行く。
表示するためのディスプレイは、液晶ではなく、ブラウン管の時代だ。
デモで使用するために大きなサイズ、25インチ以上あるブラウン管だった。
ブラウン管でこのサイズとなると、なかなか一人で持つのは大変である。
若くて頑健な男性でないと持てない。
デモをするお客さまの敷地のなかに車で乗り入れる。
駐車場から会場までは台車を使う。
それでも台車へ乗せたり、降ろしたりのときは、すべて人力となる。
そのIT会社からは、中堅と若手の技術者二人が来ていた。
若手技術者が重たいブラウン管を両手で車から台車へ降ろそうとしている。
腰を入れて抱えているが、ふらつき気味だ。
それを見た中堅が言った。
「気をつけろよ。おまえの手が擦りむけても、自然と治るけど、ブラウン管をぶつけたら破損して、なおらんぞ」
確かに、まだまだブラウン管の価格が高い時代である。
手を擦りむいても、消毒液をつけておけば、1週間もすれば元通りに戻るだろう。
ブラウン管は1週間しても、元に戻ることはない。
中堅の技術者は、半ばジョークかもしれないが、半ば本音である。
階段を上がらずにエレベーターボタンを押していただいた、ご担当者に改めて感謝した。
エレベータで3階まで上って行く中で、あの重たいブラウン管のことが、鮮明によみがえってきた。
