吉岡 秀隆さんのこと(2)
- 2020/10/26
- 00:00
Webで調べると、「長崎の鐘」を作曲した古関裕而さんは、実際には、永田医師とは会ったことがないとのことだ。
朝ドラで祐一とベッドの上の永田医師との会話の場面は、朝ドラのための脚本のなかで創作されたものということになる。
朝ドラの主人公は、実際に存在した人を取り上げることはよくあることだ。
だが、朝ドラは、ノンフィクションではない。
朝ドラのための場面があっても構わない。
祐一は、呆然として永田医師の部屋を辞し、それから3日間部屋に閉じこもってしまう。
作曲のための“きっかけ“が掴めない。
ベッドの上で、体を起こして、永田医師は、妹に言う。
「あのひとは、真面目過ぎる」
うんうんと相槌を打つ妹。
「にじみ出ています」
「自分を見つめても、見つからんのだがなぁ。」
そして、
「あそこに」
それだけで妹は兄の気持ちがわかるのだ。
「分かりました。お連れしますけん」
原爆投下の後、自ら負傷しながら医療活動をしていた場所へ案内するよう頼むのだ
祐一が永田医師の妹に連れられて、廃墟のような現場を訪れる。
そしてそこで、壁に書かれた文字を見る。
どん底に 大地あり
それが祐一の“きっかけ“となる。
祐一は、ノートに書き留める。
どん底に 大地あり、と。
でもまだ曲想がでてこない。
ノートを前にして考え込む祐一。
そのとき、鐘の音が聞こえてくる。
部屋の外に出ると、周りは焦土のまま。
そこに鐘の音だけが響いてくる。
祐一は、鐘がある広場までやってくる。
そこでは、子供たちと一緒に花を植えている妹がいる。
「鐘の音につられて来てしまいました」
「もう、面倒なんで、すみません」と兄のことを詫びるように話をする妹。
「さっさと答え、教えてくれればよかったのに」
鐘は2つあって、小さな鐘は粉々になっていたのに、大きな鐘だけが、瓦礫の中に無傷で見つかった。
みんなの力で、その大きな鐘を必死で掘り起こした。
そして、その年のクリスマスに初めて鐘を鳴らした。
鐘を前にして、妹から話を聞く、祐一。
「焦土と化した長崎の街に、鐘の音が再び響き渡ったとです。
あの時の感動は、一生忘れません。
鐘の音が、私たちに、生きる勇気を与えてくれました」
はっと気が付く、祐一。
子供たちが、花を植えている。
「そうか、、、そうか、
ようやく、気が付きました。
ありがとうございます」
「早く兄のところに。
長崎の人たちは、先生の曲を待っとります」
永田医師の部屋へ駆けつける祐一。
息が上がっている。
永田医師の顔を見て言う。
「希望ですか」
大きくうなずく、永田医師。
「神の存在を問うた若者のように、なぜ、どうしてと、自分の身を振り返っとるうちは、希望は持てません。
どん底まで落ちて、大地を踏みしめ、共に頑張れる仲間がいて、初めて真の希望が生まれるとです。
その希望こそ、この国の未来を創ると、私は信じています」
うなづく祐一。
「僕も、僕も、その若者のように、自分のことになっていました」
「あなたは、戦争中、人々を応援しとった。
戦争が終わった今、あなたにできることは、なんですか」
「変わりません。応援する歌を作り続けます」
「希望をもって頑張る人に、エールを送ってくれんですか」
微笑みながら、うなづく永田医師。
「はい、本当にありがとうございました」と言って部屋を出ていく祐一。
長崎からの帰路、汽車のなかで楽譜を書き続ける祐一。
「長崎の鐘」が生まれる。
連続テレビ小説のタイトル「エール」がここから生まれたと言ってもいいだろう。
それにしても、吉岡秀隆さんの演技は壮絶だ。
演技だけで、正直これだけ心が動いたことは、いままであっただろうか。
僕のなかの吉岡秀隆さんは、寅さんの甥っ子、満男だ。

(つづく)
朝ドラで祐一とベッドの上の永田医師との会話の場面は、朝ドラのための脚本のなかで創作されたものということになる。
朝ドラの主人公は、実際に存在した人を取り上げることはよくあることだ。
だが、朝ドラは、ノンフィクションではない。
朝ドラのための場面があっても構わない。
祐一は、呆然として永田医師の部屋を辞し、それから3日間部屋に閉じこもってしまう。
作曲のための“きっかけ“が掴めない。
ベッドの上で、体を起こして、永田医師は、妹に言う。
「あのひとは、真面目過ぎる」
うんうんと相槌を打つ妹。
「にじみ出ています」
「自分を見つめても、見つからんのだがなぁ。」
そして、
「あそこに」
それだけで妹は兄の気持ちがわかるのだ。
「分かりました。お連れしますけん」
原爆投下の後、自ら負傷しながら医療活動をしていた場所へ案内するよう頼むのだ
祐一が永田医師の妹に連れられて、廃墟のような現場を訪れる。
そしてそこで、壁に書かれた文字を見る。
どん底に 大地あり
それが祐一の“きっかけ“となる。
祐一は、ノートに書き留める。
どん底に 大地あり、と。
でもまだ曲想がでてこない。
ノートを前にして考え込む祐一。
そのとき、鐘の音が聞こえてくる。
部屋の外に出ると、周りは焦土のまま。
そこに鐘の音だけが響いてくる。
祐一は、鐘がある広場までやってくる。
そこでは、子供たちと一緒に花を植えている妹がいる。
「鐘の音につられて来てしまいました」
「もう、面倒なんで、すみません」と兄のことを詫びるように話をする妹。
「さっさと答え、教えてくれればよかったのに」
鐘は2つあって、小さな鐘は粉々になっていたのに、大きな鐘だけが、瓦礫の中に無傷で見つかった。
みんなの力で、その大きな鐘を必死で掘り起こした。
そして、その年のクリスマスに初めて鐘を鳴らした。
鐘を前にして、妹から話を聞く、祐一。
「焦土と化した長崎の街に、鐘の音が再び響き渡ったとです。
あの時の感動は、一生忘れません。
鐘の音が、私たちに、生きる勇気を与えてくれました」
はっと気が付く、祐一。
子供たちが、花を植えている。
「そうか、、、そうか、
ようやく、気が付きました。
ありがとうございます」
「早く兄のところに。
長崎の人たちは、先生の曲を待っとります」
永田医師の部屋へ駆けつける祐一。
息が上がっている。
永田医師の顔を見て言う。
「希望ですか」
大きくうなずく、永田医師。
「神の存在を問うた若者のように、なぜ、どうしてと、自分の身を振り返っとるうちは、希望は持てません。
どん底まで落ちて、大地を踏みしめ、共に頑張れる仲間がいて、初めて真の希望が生まれるとです。
その希望こそ、この国の未来を創ると、私は信じています」
うなづく祐一。
「僕も、僕も、その若者のように、自分のことになっていました」
「あなたは、戦争中、人々を応援しとった。
戦争が終わった今、あなたにできることは、なんですか」
「変わりません。応援する歌を作り続けます」
「希望をもって頑張る人に、エールを送ってくれんですか」
微笑みながら、うなづく永田医師。
「はい、本当にありがとうございました」と言って部屋を出ていく祐一。
長崎からの帰路、汽車のなかで楽譜を書き続ける祐一。
「長崎の鐘」が生まれる。
連続テレビ小説のタイトル「エール」がここから生まれたと言ってもいいだろう。
それにしても、吉岡秀隆さんの演技は壮絶だ。
演技だけで、正直これだけ心が動いたことは、いままであっただろうか。
僕のなかの吉岡秀隆さんは、寅さんの甥っ子、満男だ。

(つづく)