違反取締
- 2015/04/03
- 00:00
初めて車でのスピード違反取締を受けたのは、深夜の高速道路だった。
そのとき、30代後半である。
仕事で遅くなることが分かっていた日だったので、朝から車で出かけていた。
予定とおり仕事が終わったのは、午前零時をまわっていた。
すいている高速道路を飛ばしていた。
1台だけで走っているときは、いつも周囲に注意するのだが、そのときは、魔がさしたように、アクセルを踏み込んで、周りを見ていなかった。
気がついたときには、白バイが後ろから、僕の車の横に来て、停車できるところで止めろと合図する。
しまったと思ったが、すでに時遅し。
「ここは制限速度がいくらか,分かっていますか」
白バイ警官が、停車した僕の車の横で、窓越しに質問する。
制限速度?
僕はとっさに分からず、申し訳なさそうに、ただすみません、と下を向いていた。
「これからどこへ行くのですか」
「今まで仕事で、自宅へ戻るところです」
僕の息からアルコールのにおいを嗅ぎ分けようとしている感じだ。
もちろん、その日は、一滴も飲んでいない。
真面目なサラリーマンが仕事で遅くなって、家路を急いでいると、分かってもらえたようだ。
20代の若造でもない、ということは顔をみて分かったのだろう。
「あんまり、スピードを出してはいけませんよ。注意して行ってください」
なんと、僕はそのまま解放されたのである。
初めてのスピード違反の取締が、幸運にも、このような警官の対応だったので、物わかりのいい警官もいるではないかという記憶が、僕の脳の中にしっかりと残った。
それと同じ頃だ。
会社の部門の旅行で伊豆のほうへ行くことがあった。
僕は関西から新幹線ででかけたのであるが、同じ部門のメンバーの多くは東京からの移動だった。
電車で移動する人、車で移動する人。移動方法は各自ばらばらだった。
そのなかで、バイクの好きな中年二人がいた。
伊豆までバイクでのツーリングでやってきた。
伊豆で合流してから聞いた話では、都内を出て,高速に入ったところで、パトカーに止められたという。
バイクでつるんで走っているので、危険なヤンキーのバイク乗りと間違えられたのかもしれない。
路肩に止まって、警官に話しかけられたときに、それまでフルフェースで完全に顔を隠していたヘルメットの前をあげて、二人の中年は、顔を見せた。
おそらく、顔を見るまで、格好だけでは、若いのか、年輩のライダーか、分からなかったのだろう。
二人の顔を見た警官は、何も言わずに、すぐに解放してくれたという。
若いライダーは、それだけで不利なのかもしれない。
中年ライダーは有利なのだろう。
この二つのことは、それからもずっと、僕の頭の中に残っていた。
それから随分時間が経った。
大阪の北の方を車で走っているときだ。
新大阪までは急げば、15分くらいのところだった。
ちょうど新大阪のお客さんと打ち合わせがあり、少し遅れそうだった。
交差点に向かって進んでいた。
かなり手前で、信号が黄色だ。
いつもなら、そこで止まるのであるが、時間のないことから、そのまま交差点に入ってしまった。
反対の信号はまだ赤なので、交差点を突っ切った。
交差点を渡ったところに、なんと警官が立っているではないか。
普通はあり得ないことである。
飛んで火に入る夏の虫である。
警官の笛が鳴った。
車を止める。
「真赤かっかだったろう」といきなり言われる。
確かにそうだ。
「どこまでいくのですか」
新大阪と言うと、新幹線に乗るので急いでいたと勘違いしたらしい。
新大阪イコール新幹線という早とちりは、タクシーの運転手もそうだが、意外と多い。
「急いでいるのですか」
新幹線に間に合わないと思っている。
時間がないと言う。
うん、もしかするとこのまま、放免されるのだろうかと、昔のことが頭をよぎる。
こちらは、あのときよりも年を重ねている。
それは有利な材料だと、自分の信号無視を棚にあげて、期待感が広がる。
「それでは、行って」
おっ、これは解放されるのか。
「用事をすませてから出頭してください」
僕の甘い考えは、もろくも打ち壊された。
わざわざ行ってから、また戻ってきて、処理することは、嫌なことを引きずるので、選択するわけがない。
その場で、書類を書いてもらって、すこしでも早く、この悪夢を終わらせることにした。
いくら急いでいても、信号は守らないといけません。
肝に銘じた。

そのとき、30代後半である。
仕事で遅くなることが分かっていた日だったので、朝から車で出かけていた。
予定とおり仕事が終わったのは、午前零時をまわっていた。
すいている高速道路を飛ばしていた。
1台だけで走っているときは、いつも周囲に注意するのだが、そのときは、魔がさしたように、アクセルを踏み込んで、周りを見ていなかった。
気がついたときには、白バイが後ろから、僕の車の横に来て、停車できるところで止めろと合図する。
しまったと思ったが、すでに時遅し。
「ここは制限速度がいくらか,分かっていますか」
白バイ警官が、停車した僕の車の横で、窓越しに質問する。
制限速度?
僕はとっさに分からず、申し訳なさそうに、ただすみません、と下を向いていた。
「これからどこへ行くのですか」
「今まで仕事で、自宅へ戻るところです」
僕の息からアルコールのにおいを嗅ぎ分けようとしている感じだ。
もちろん、その日は、一滴も飲んでいない。
真面目なサラリーマンが仕事で遅くなって、家路を急いでいると、分かってもらえたようだ。
20代の若造でもない、ということは顔をみて分かったのだろう。
「あんまり、スピードを出してはいけませんよ。注意して行ってください」
なんと、僕はそのまま解放されたのである。
初めてのスピード違反の取締が、幸運にも、このような警官の対応だったので、物わかりのいい警官もいるではないかという記憶が、僕の脳の中にしっかりと残った。
それと同じ頃だ。
会社の部門の旅行で伊豆のほうへ行くことがあった。
僕は関西から新幹線ででかけたのであるが、同じ部門のメンバーの多くは東京からの移動だった。
電車で移動する人、車で移動する人。移動方法は各自ばらばらだった。
そのなかで、バイクの好きな中年二人がいた。
伊豆までバイクでのツーリングでやってきた。
伊豆で合流してから聞いた話では、都内を出て,高速に入ったところで、パトカーに止められたという。
バイクでつるんで走っているので、危険なヤンキーのバイク乗りと間違えられたのかもしれない。
路肩に止まって、警官に話しかけられたときに、それまでフルフェースで完全に顔を隠していたヘルメットの前をあげて、二人の中年は、顔を見せた。
おそらく、顔を見るまで、格好だけでは、若いのか、年輩のライダーか、分からなかったのだろう。
二人の顔を見た警官は、何も言わずに、すぐに解放してくれたという。
若いライダーは、それだけで不利なのかもしれない。
中年ライダーは有利なのだろう。
この二つのことは、それからもずっと、僕の頭の中に残っていた。
それから随分時間が経った。
大阪の北の方を車で走っているときだ。
新大阪までは急げば、15分くらいのところだった。
ちょうど新大阪のお客さんと打ち合わせがあり、少し遅れそうだった。
交差点に向かって進んでいた。
かなり手前で、信号が黄色だ。
いつもなら、そこで止まるのであるが、時間のないことから、そのまま交差点に入ってしまった。
反対の信号はまだ赤なので、交差点を突っ切った。
交差点を渡ったところに、なんと警官が立っているではないか。
普通はあり得ないことである。
飛んで火に入る夏の虫である。
警官の笛が鳴った。
車を止める。
「真赤かっかだったろう」といきなり言われる。
確かにそうだ。
「どこまでいくのですか」
新大阪と言うと、新幹線に乗るので急いでいたと勘違いしたらしい。
新大阪イコール新幹線という早とちりは、タクシーの運転手もそうだが、意外と多い。
「急いでいるのですか」
新幹線に間に合わないと思っている。
時間がないと言う。
うん、もしかするとこのまま、放免されるのだろうかと、昔のことが頭をよぎる。
こちらは、あのときよりも年を重ねている。
それは有利な材料だと、自分の信号無視を棚にあげて、期待感が広がる。
「それでは、行って」
おっ、これは解放されるのか。
「用事をすませてから出頭してください」
僕の甘い考えは、もろくも打ち壊された。
わざわざ行ってから、また戻ってきて、処理することは、嫌なことを引きずるので、選択するわけがない。
その場で、書類を書いてもらって、すこしでも早く、この悪夢を終わらせることにした。
いくら急いでいても、信号は守らないといけません。
肝に銘じた。
